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「フォトンランサー・ジェノサイドシフト!解き放て!」 刹那、金色の光の雨が降り注ぐ。そして降り注いだ光は、シアゴーストのほとんどを射抜いた。 シアゴーストの残りは3体。だが、それよりも驚いたのは、はやてが立ち直ったことである。 「はやて!もう大丈夫なのか?」 「うん。心配かけてごめんな。でも、もう大丈夫や」 はやてはそう言うと、シグナムの方を向く。 「シグナム、ありがとな。おかげで目が覚めたわ」 「…何のことかは存じませんが、お役に立てたのなら幸いです」 「ラケーテンハンマー!」『Explosion.』 「紫電一閃!」『Explosion.』 『FINALVENT』「はぁっ!」 遠心力を利用した打撃魔法『ラケーテンハンマー』が、 炎を纏った斬撃『紫電一閃』が、 空中での回転体当たり『シザースアタック』が、3体のシアゴーストを砕いた。 「神崎士郎が言っていた邪魔者…どうやら彼女達のようですね」 帰宅後、誰もいない自室で須藤が呟く。彼の言う邪魔者とは、時空管理局の面々だ。 というのも、時空管理局の面々は神崎から「戦いを邪魔する者」と称され、ライダー達にも先日「早く倒しておいた方がいい」という通告が来たのだ。 「まさかあのような子供だったとは…まあいいでしょう。 前のように邪魔をされては困りますからね、早めに潰しておくとしましょうか」 須藤が敵に回ることが確定した。ちなみに、前というのは浅倉の立て篭もりの一件である。 第十六話『白き翼・ファム』 「名前、水岡和夫、佐伯琢磨…職業パイロット、弁護士、医者…」 「とにかく色々だよ、その他色々!」 資料を読む真司の思考を大久保が止める。 「何スかこれ?」 「その男の今まで見つかった偽名と偽の職業」 令子の説明を聞き、真司がある結論に至った。 「ってことは…!」 「だから詐欺師なんだよ詐欺師!それも名うての結婚詐欺師だ!」 そう、その男(とりあえず、今の偽名『水岡和夫』で呼ぶとしよう)の正体は詐欺師だ。 「名うての」とついた所から察するに、今までかなりの回数、詐欺を繰り返したのだろう。 「あ、なるほど。この男の罪暴くってのが今回の仕事ですか」 「…ピンポン!お前、そうなりゃこりゃ立派な社会正義だよ。 しかもお前その男許せるか?あっちこっちの女にモテまくりやがって!」 真司にしては珍しく察しがいい。そしてそれに私怨交じりで返す大久保。 「許せませんねえ!」 そして真司もそれに同調した。 今現在、この二人の思考は見事にシンクロしている。 分かりやすく言えば「目の前(の写真)にいるこの野郎だけは絶対に許せねぇ!」といった感じだ。 「妬み、僻み…嫉みですか?」 呆れ顔で言う島田に、同じく呆れ顔で令子がうなずく。 それはともかくとして、令子が写真を取り出した。今現在水岡が狙っている女性の写真だ。 「そしてこれが今、その男が狙っているターゲットよ。霧島美穂。中々のお嬢様らしいわ」 「はー…綺麗な人ですね…」 「そんな…彼が詐欺師だなんて…」 「信じられないかもしれませんが、全て事実です」 現在、真司と令子が美穂に協力を依頼しているところだ。 さすがに恋人だと思っていた相手が詐欺師だと言われるのは精神的にこたえるようだ。 だが、無理にでも信じさせなければならない。そうせねば泣きを見るのは美穂なのだから。 「何か証拠でもあるんですか?彼が詐欺師だという証拠が…」 そう言われ、真司が先ほどまで見ていた資料を取り出し、美穂に見せる。 「あの水岡って奴が今まで使ってきた偽の身分のリストです。これだけあれば詐欺師と決め付けるには十分だと思いますけどね」 美穂がリストを手に取り、目を通す。 そこには水岡が今まで使ってきた偽の身分がズラリ。何かの名簿に見えてもおかしくないほどの数だ。 さらに、裏にも何かが書かれているのを見つけ、それにも目を通す。今度は被害女性の名前がズラリ。 さすがに信じたらしく、資料を真司に返す。 「…分かりました。協力します」 そう言って、令子から差し出されていた小型集音マイクを受け取った。 「では、今後の予定は追って連絡します」 そう言い、二人揃って退室していった。 帰る途中、真司の頭に引っかかることがあったが、今はどうでもいいと考えて仕事に戻った。 (あの人の声、どっかで聞いたことがあるんだよな…) そして作戦実行の当日、霧島邸にて。 「いや、これは立派なお宅だ。美穂さんが住むのに相応しい」 「私には広すぎます。ぬくもりが感じられないから…」 そう言って、美穂と水岡がソファーに座る。 「なら、僕達が結婚したら…うんと狭い家で暮らしましょう。そうすれば、いつも一緒に寄り添っていられる」 ちなみに集音マイクで音を拾っているため、外で待機している真司と令子にも会話の内容は筒抜けだ。 「…っかー!キザな奴!」 歯の浮くようなセリフで、真司が多少参っているようだ。 「結婚してくれますね?」 「私なんかのためにこんな…」 水岡が指輪のケースを取り出し、美穂に差し出す。美穂もそれを笑顔で受け取った。 「いいんですよ。婚約指輪くらい、多少無理したって…」 それを聞き、怪訝そうな顔をする。 「無理、なさった…?」 「会社の方がうまくいってなくて、資金繰りに困っていて… いえ、すいません。つまらない話をしてしまった…何、大したことありませんよ」 それを言った瞬間、思い切り扉が開く音と、真司の「そこまでだ!」という声が響いた。 「やっぱり最後は金か!毎度同じ手を使いやがって、ネタは挙がってんだよこのイカサマ野郎!」 「な、何だ君達は!」 水岡がそう言うと、待ってましたとばかりに真司が財布から名刺を取り出す。 そして財布を放り投げ、名刺を掲げて名乗った。 「正義の味方、城戸真司!OREジャーナルの記者だ!」 そう名乗っている間に、令子が美穂を逃がす。そして令子が啖呵を切った。 「残念だったわね。ま、女を食い物にするような人生がそう長続きするはずが無いわ。諦めなさい!」 そんなやり取りの最中、美穂の両親と思われる老夫婦がその部屋に入ってきた。 いるはずの無い人間がいる事に驚き、老婦が問い詰める。 「何なんですかあなた達は!」 「美穂さんのご両親ですね?」 「…美穂?何を言ってるんだ?うちに娘はおらんがな」 …はい? 「え?で、でも…」 うろたえながらも家族の写真を手に取る令子。だが、先ほどとは違う写真に差し替えられていた。 どう違うかというと…中央に写っている美穂が、あかんべえをしている。 「あ!?」「何これ?」「これは…!」 ついでに言うと、その写真の近くに放り投げられた真司の財布も無い。 「よっしゃー!指輪ゲットー!」 駅のホームで、美穂が大喜びしている…そう、実はこの女こそが結婚詐欺師だったのだ。 先日の真司達とのやりとりも、全て演技で応えていた。「女は役者」という言葉を体現したような女である。 「それから…何だこりゃ?小銭だけかよ…」 先ほど写真すり替えのついでに盗った真司の財布を開き、中身を確認する。 …が、中身は小銭くらいしか入っていない。それを見た美穂も落胆しているようだ。 「あいつどこに…あ!」 先ほどのやり取りの後、3人で手分けして美穂を探している。 特に真司は財布を盗られているから必死だ…と、見つけたようだ。 だが時既に遅し。美穂は真司の金で缶コーヒーを買った後だ。 「そ、それ!俺の財布!」 「え、あ…これ飲む?奢るけど」 「ああ、ありがと…ってお前ふざけんな!」 「買うものはこれで全部かな…って、あれ?真司?」 買い物帰りのフェイトが偶然通りかかった。 何故駅前まで来ているのかは…探し物が売ってなくて駅前まで探しに来たからである。 で、道路を挟んで反対側に真司の姿を見つけ、現在近寄ろうとしているところだ。 …だが、見慣れない女が真司と話しているのを見て、一度中断した。 「あの人誰だろ…彼女かな?」 「いいから離せって!ほら!」 「いいの?離して」 「いいよ!」 今現在、真司の財布の取り合い…というか、引っ張り合いの真っ最中だ。 フェイトよ、この状況のどこをどう見れば恋人に見えるというのだ。 「はい」 離した。それと同時に真司が転ぶ。 綱引きと同じ要領だ。思い切り引っ張り合っているときに片方が手を離すと、もう片方がバランスを崩すアレである。 そして転んだ拍子に財布の中身を路上にぶち撒けた。 「何やってんだよ、もう!」 慌ててぶち撒けた小銭を拾う真司。だが見える範囲にある小銭を全て拾ってもまだ足りない。 そんな時、目の前に差し出される手。その手には小銭が乗っていた。 「はい。拾っておいたよ」 「あ、ありがと…って、フェイトちゃん?何でここに…」 そのやり取りの間に、美穂が先ほどのコーヒーを口に含む。 「真司こそ。その人とデート?熱いね」 そして思い切り吹き出した。コーヒーで虹が出来たように見えたが、気のせいだと思いたい。 「いや違うって。実はかくかくしかじかで…」 毎回思うが、何故これで通じるのだろうか? …ともかく、フェイトも納得したらしく、冷やかすのも止めたようだ。 「だから言ったでしょ?騙される方が悪いんだって」 「いや人のせいにするなよ」 「あ、でも騙されるのはあたしの美貌が悪い?ってことはあたしを美しくお造りになった神様が悪い?」 「神様のせいにしないでよ…」 現在、美穂の弁解に真司とフェイトが揃って突っ込みを入れている状況だ。 騙される奴が悪いという詐欺師の論法には負けないでほしいと思う。 「おい、指輪を返してもらおうか」 声に気付き、揃って振り向く。声の主は水岡だ。 真司が身振りで指輪を返すようせかす。それに対し美穂は返す気が無いようだ。 「真司、あの人が?」 「そう。さっき話した結婚詐欺師だよ。ほら、指輪返せって」 「やだよ。何でもらい物返さなきゃなんないの?」 そんなやり取りの間にも、水岡が近づいてくる。 だが、水岡への注意は次の瞬間それた。例の金属音である。 水岡以外の3人が気付き、「どこから来る?」といった感じで辺りを見回した。 …と、次の瞬間。金属柱から触手が伸び、水岡が引き込まれた。 「あの触手、もしかして…!」 伸びてきた触手は、フェイトには見覚えのあるものだった。 だが、それはとりあえず置いておき、その金属柱の前へと移動する3人。 そして、変身しようとしたとき、真司が信じられないものを見た。 「変身!」 それは、美穂がライダーへと変身した姿だ。しかもかつて戦ったファムにだ。 (そうか…どっかで聞いたことがあると思ったら、あの立て篭もりの時か) そう思いながら、真司もカードデッキを金属柱へと向け、変身した。 「あんた…あの時のライダーだったのか」 立て篭もり事件の時、その戦いに参加していなかったフェイトは話についていけてない。 「それより、早く行った方が…」 「っと、そうだった!」 すぐに話を切り上げ、ミラーワールドへと踏み込んだ。 「そんな、あのモンスターは前に手塚さんが倒したはず…!」 彼らの前にいるモンスター、それはかつて手塚が討ったモンスターで、管理局がライダーとの戦いに介入するきっかけにもなったモンスターでもある。 そのモンスターの名は…バクラーケン。かつてなのはやフェイトを圧倒したモンスターである。 フェイトにとっては因縁のモンスターといったところか。 「同じ種類のモンスターが複数いるって事くらい、別に珍しくも無いよ。 ギガゼールやシアゴーストみたいに群れで動くのもいるくらいだしね」 そう言うと、ファムがバイザーを振るい、バクラーケンへと向かっていった。 それを見たフェイトも、バルディッシュをハーケンフォームにして突っ込む。 「よし、じゃあ俺も…うわ!?」 ドラグセイバーを手に、龍騎もバクラーケンへと向かおうとする…が、後ろからの一撃で中断せざるを得なくなった。 「くっ、もう一体いたのかよ!」 真司に一撃を喰らわせたモンスター、それはバクラーケンの亜種で、武器の扱いを得意とするモンスター『ウィスクラーケン』だ。 声と衝撃音に気付き、真司の方を見るフェイト。そこでウィスクラーケンの存在に気付いた。 「真司!?待ってて、今そっちに…」 「いや、こいつは俺が何とかする。フェイトちゃんはそっちを頼むよ」 あの時と比べると、フェイトは確実に強くなっている。 通らなかった攻撃も通っている。効いている。攻撃も防御魔法『ディフェンサープラス』で防げる。 と、またハーケンフォームの一撃が通った。さらにファムのウイングスラッシャーが傷口に当たり、通常より大きなダメージを与えている。 「私、強くなってる…?」 『ええ、強くなってますよ。前よりずっと』 フェイトの独り言にバルディッシュが答える。どうやら聞こえていたらしい。 「しゃべってる場合?このまま一気に決めるよ!」 そう言ってカードを取り出すが、煙幕で姿を隠される。 「煙幕なんかで止まるわけないだろ!」 『ADVENT』 地面のアスファルトが砕け飛ぶ。そこから現れたのはファムの契約モンスター『閃光の翼ブランウイング』だ。 砕けた地面から水が噴き出しているのを見ると、どうやら地下水脈があったのだろう。 それはともかく、ブランウイングが羽ばたき、その風で煙幕を吹き飛ばした。だが、バクラーケンは往生際が悪く、再び煙幕を張ろうとする。 「いくよ、バルディッシュ。ブリッツラッシュ」 『Yes,sir. Blitz Rush.』 だが、そうは問屋がおろさない。高速移動魔法『ブリッツラッシュ』で距離を詰め、零距離で左手を突きつけた。 「この距離なら、煙幕を張られても外さない…!撃ち抜け、轟雷!プラズマスマッシャー!」 『Plasma Smasher.』 魔法陣が複数形成される。さらに魔力が溜まってゆく。 そして、雷の砲撃魔法『プラズマスマッシャー』がバクラーケンに風穴を開け、そのまま爆散させた。 一方こちらはというと… 「うわっ、とっ、やっぱ手伝ってもらったほうがよかったかな…?」 ウィスクラーケンの槍をかわし、受け止め、払い、そして隙を衝いて反撃という状況が続いていた。 痺れを切らし、ドラグセイバーで斬りかかる龍騎。だが、ウィスクラーケンはそれをかわし、龍騎に槍を振り下ろしてくる。 龍騎はその槍を受け止め、空いた脇腹に蹴りを見舞った。 「よし…!」 『STRIKEVENT』 ドラグゼイバーを左手に持ち替え、ストライクベントを装填。ドラグクローを呼び出した。 そして剣と拳による連続攻撃を決め、バクラーケンを弱らせる。完全に龍騎のペースだ。 さらにドラグセイバーを投げつけたが、槍で払われてしまう。 だが、その時にわずかな隙が出来た。それで十分トドメを刺せる。 「ハァァァァ…りゃぁぁぁぁぁ!!」 払ったときの隙の間にドラグクローを構えていた。それに呼応しドラグレッダーが現れる。 そして、右ストレートの要領で昇竜突破を放った。 ウィスクラーケンはそれを槍で受け止めようとしたが、槍で炎を受け止められるはずも無く、そのまま焼き尽くされた。 「フェイトちゃん、そっちは終わ…って、聞くまでも無いか」 確かに聞くまでも無い。ちょうどバクラーケンを倒したところだ。 …と、ファムがフェイトに向き直る。 「へぇ、それが魔法?ってことは神崎士郎が言ってた邪魔者ってのは…」 「邪魔者って…どういう事?」 「言葉通りの意味だよ。あんたら魔法使いはライダーの戦いを邪魔するんだって聞いてるんだ」 初耳だ。一体いつの間に神崎に存在を知られたのだろうか? 「何だよそれ…俺はそんなの聞いてないぞ!」 「あんた、その子と親しいみたいだし、邪魔者に加担してるって思われてるんじゃないの?」 なるほど、道理で龍騎の所にはその情報が届かなかったわけだ。 だとしたら、蓮や手塚の所にもその情報は来ていないのだろう。 「今ここで倒してもいいけど…今回は警告だけにしておくよ」 そう言うと、フェイトの喉下にバイザーをつき付け、言った。 「ライダーの戦い、邪魔はしないほうがいいよ」 ファムは言いたい事を言うとバイザーを収め、ミラーワールドを出て行った。 戻る 目次へ 次へ
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戦いは、すでに始まっていた。 アンデッドとこの世界の住人の初戦闘。だが、やはりアンデッドに勝てはしないだろう。 アンデッドは死なない。封印能力を持つジョーカーかライダー、または統制者の力が無ければアンデッドは決して止められないのだ。 案の定、あの守護獣はものの見事に打ち倒されていた。 そしてあの獣人を受け止める二人の女性ににじりよるアンデッド。 そこに、ようやく奴は現れた。 「遅いぞ、剣崎ぃ!」 思わず歓喜の叫びが漏れる。そうだ、今こそ奴の力を解放するときだ。俺が倒すべき力を。仮面の力を! 俺は煙幕を兼ねたステルス結界を展開しながら、奴の元に接近していった。 リリカル×ライダー 第十話『ライダー』 「俺は、『仮面ライダー』だ!」 カズマから溢れ出す力。封印されていた力が解放され、細胞の一片までも余すところ無く活性化される。 銀色に光るアーマーの各部に穿たれたスペードの刻印、ハンドガード部に展開式のカードホルダーが設けられたことで本来の状態に戻った醒剣ブレイラウザー。 ライダーシステム二号機、ブレイド。 これこそが、カズマの刃だった。 「そうだ、それだ! その力こそ僕が打倒したかったものだ!」 イーグルアンデッドは空から地上の煙幕越しにカズマを見つめる。その鋭い瞳は、最高の獲物を見つけたことによって輝いていた。 カズマは空を見上げる。未だ煙幕は濃く、視界には白い煙しか映らない。だが彼の視線は正確にイーグルアンデッドに向けられていた。 そんなときだった。 『久しぶりだな、剣崎君』 「えっ!?」 突然チェンジデバイスから声が発生する。 その声が、台詞が、カズマの様々な記憶を揺さぶる。 (剣崎……そうだ、俺の名字だ。そうだ、俺はこんなもので仮面ライダーに変身したりはしなかった。何故? それにこの男は……) 『剣崎君、今は目の前のことに集中したまえ』 その台詞にはっとする。そうだ、今はこの上級アンデッドの封印が先決だ。 『手短に説明するが、そのチェンジデバイスには魔導師モードとライダーモードがある。 今はライダーモードを起動しているが、ライダーモードは全機能を解放するモードだからその状態でも魔法は使用可能だ。すぐに飛行魔法を使用したまえ』 「待て、アンタは一体――」 『君の恩人であり、君を苦しめる者。忘れているだけだよ、君は。さぁ、急げ。剣崎君』 それきりチェンジデバイスは何の反応もしなくなった。 カズマは嘆息をつきながら両脚に力を込める。そう、今はそんな瑣末なことを気にしてはいられない。戻った力を使って、目の前の脅威を振り払わなければならない。 「フライブースター!」 『Fly booster』 力強く地面を蹴り上げ、カズマは飛翔する。 イーグルアンデッドの待つ、蒼空へと。 ・・・ ついに憎きライダーが本来の力を取り戻した。 欠けていた刻印とカードも戻り、かつて戦ったときと同じ姿になった。ベルトだけは違うが、それはどうでもいいことだ。 そう、これでかつての雪辱を晴らすことができる……! 「ライダーァァァッ!」 「うあぁぁぁあぁっ!」 俺は鉤爪を振るい、奴は醒剣を奮う。 激しい摩擦音と火花。 パワーは同じだが、技のキレは増している。やはり記憶も連動して戻っているのだろう。前回の野獣そのものの戦い方とは別人のようだ。 互いに力を入れて相手を吹き飛ばし合いながら一旦間合いを取る。 そして僕は自らの鉤爪を遠心力がかかるように振り回しながら奴に叩き付ける! 「ぐっ!?」 だが奴はそれを剣で受け流し、あまつさえ反撃としてこちらの腹を蹴飛ばした。 「うあぁぁぁっ!」 更なる連撃。 こちらが怯んだ隙を突くように斬撃を放ってくる。それは滝のような激しさと流麗さ。 「調子に乗るなっ!」 僕はそれを鉤爪で受け止めつつお返しに奴のヘルメットを左手で殴り飛ばす。 勝負は全くつかない。 僕は戦術を変えるために翼を羽ばたかせ、高度を一気に上げた。 「食らえ!」 奴の上空から羽根を展開し、奴に撃ち込む。数十の魔弾はそれぞれが独自の軌道を描きつつ、ライダーを射抜かんと迫る。 『――SLASH』 「でやあっ!」 同時に奴は剣の側面にあるカードリーダーにカードをスラッシュさせ、アンデッドの力を引き出す。 互いの渾身の一撃がぶつかり合い――その余波が僕を襲撃する。 「何っ!?」 両翼を畳んで盾としながら何とか防ぐ。 信じられなかった。 いくら奴がアンデッドの力を操る能力を持っているとしても、上級アンデッドが放つ精魂の一撃を容易く破れるはずがない。 (何故、だ……?) 奴を見る。 その無機質な仮面に付いた複眼からは、今までとは違う澄んだ力が感じられる。そう、目の輝きが以前より増している。 だがそんなことはどうでもいい。僕は、勝たねばならないんだ! 「ライダァァァアァァァッ!」 奴に向かって突撃する。己の信じる得物に全てを託し、身体中の細胞を躍動させ、自らの全てを懸けて。 『――KICK』 奴はカードをスラッシュさせた後、足元に魔法陣を展開させ、その上で独特の構えを取りつつ剣を魔法陣に突き刺す。 「僕は、カリスと決着をつけるんだ!」 「俺は皆を、全ての人々を守るんだ!」 互いが誇る最強の攻撃。 僕の突きと奴の蹴り。 原始的で単純で、それ故に最強足り得る攻撃が衝突する――! 「……が、はっ」 結果、アンデッドの力を纏ったライダーの蹴りは僕の腹に直撃し、僕の突きは奴の剣によって受け止められた。 「がほっ、ごっ」 身体から力が抜けていく。敗者の証明として、アンデッドバックルが開かれる。 たかが低級アンデッドの力を纏っただけの、人間の一撃。しかしそれはこの僕を確実に貫いた。 (これが、奴の――人間の、力……) ――人間は弱い。けれど強い。 過去が一瞬フラッシュバックする。 カリスと決闘の約束を交わした後、残ったアンデッドの掃討をしている時の記憶。 ――僕らには、守るべき者がいるから。 そう、自分を倒した存在。カリスではないただの下級アンデッド。 ヒューマンアンデッドの記憶。 (そう、か。奴には……) それを理解した数瞬後、僕は一枚の紙切れに吸収されていく自分を感じた。 ・・・ 「ようやく、ここまで来たな。剣崎君」 広大な広間に広がる機械群。空中に展開される無数のモニター群。たった一人の人間には広すぎるはずの空間は、それらによって狭くすら感じる場所となっていた。 その一枚には、緑の光になりながら一枚のカードに封印されていく一体の上級アンデッドが映っていた。 それを封印するのはブルーのインナースーツにスペードの刻印があしらわれた銀色の装甲に身を包む仮面の戦士。 「いよいよ奴も、そして橘君も動き始めたようだし、これから忙しくなるよ」 一人の男がデスクに腰を下ろしてコンピューターを操作する。壮年の皺が入った頬を引き締め、紫の短髪をかき揚げながら彼は機械を操作し続ける。 「頼むよ、剣崎君。あの偽物を追い詰めてくれたまえ。私があの男を殺すために。そう、過去に清算を付けるために」 モニターに四人の女性に囲まれた白衣を着た長髪の男が映る。その画面を注視しながら、男はキーボードを力強く叩いた。 そこに映し出されるのは膨大な量の文章。正確には一つの物語。 だがそれは彼が書いたものではない。周辺のモニターに映る数値に合わせて更新されている、いわば計画書。 「これは、私のケジメなのだからな」 男は静かに、画面に映る白衣の男を睨み付けた。 ・・・ 結局、煙幕もとい妨害結界のせいで戦いの一部始終を見ることは叶わなかった。 後方支援部隊のロングアーチも妨害によって今回の戦闘を記録することができなかったと報告している。指揮官自ら戦場に出向いたのもミスだったかもしれない。 「しかしどうやってあの怪物を倒したんやろう……」 最後に見た緑の閃光を発しながら消えていく怪人の姿が思い出される。あの現象が何なのかも分かっていない。 すでに染み付きつつあるため息を漏らす。まだ19歳なのにどないしよー、となのはちゃんやフェイトちゃんに相談する始末だ。せめて皺などは入らないようにしなければ。 閑話休題。 「フェイトちゃんとティアナが帰ってきてくれて良かったわ」 ちょうど戦闘が終了した一時間後に二人は捜査を終えて帰ってきていた。ザフィーラが重傷を負った時だったので心強い限りだ。お陰で六課の防衛は二人に任せることができる。 なのはちゃん達はまだ二日ほど帰ってこられないのもあって、二人の存在は想像以上に六課の皆を安心させている。というより、私が安心しているのだが。 かつてJS事件のときに一度隊舎を破壊されたことがあるので、その安心感は何よりも欲していたものだ。私は広域殲滅魔法が専門だから迎撃などは向いていないし。 「カズマ君も元気みたいやしな」 あの戦闘後、今までとは打って変わって明るく元気になったカズマ君は、今はフェイトちゃん達と夕食を取っている。 本当は私も行きたかったのだが、今回の事後処理にザフィーラの通院申請と、やることが山ほどあったので諦めた。 「私はいつも退け者やぁ……」 独り言が増えたのは内緒だ。 ・・・ 高い天井と広さを兼ね備えた部屋を橙色の灯りが照らし出す。 ホテルのロビーのように整っている部屋は、しかしホテルのように誰かを迎え入れるようには作られていない。 そこは作戦室。 または闘技場。 円形のそこは、そのような用途で作られていた。 そこに現れる影が二つ。 片方は以前と比べてさっぱりした薄紫の髪と白衣が特徴の男、ジェイル・スカリエッティ。 もう一人は彼の秘書にして、戦闘機人――スカリエッティの生み出した一種のサイボーグ――でもある妙齢の美女、ウーノ。 スカリエッティは単に広い場所を求めてここに来ただけらしく、大量の機材をカプセルのような外見をしたガジェットⅠ型に運ばせてきていた。ウーノは彼についてきただけのようだ。 スカリエッティはある装置の上に以前手に入れた緑を基調に金の装飾の入った箱を置く。装置を起動させると、いくつものモニターが空間に浮かび上がった。 「やはり、偽物だな」 「……はい?」 突如呟くスカリエッティに、ウーノが戸惑いながらも問いかける。 スカリエッティが思い付きや考えなしに独り言を言い出すのは今に始まったことではないのだが、ウーノがいちいちご丁寧に反応するのも今に始まったことではない。 「ウーノ。これはね、オリジナルを元に誰かが作り出した贋作なのだよ」 「は、はぁ」 ウーノとて頭は悪くはない。いやむしろ秀才とすら言っていいほど彼女の頭脳は優れている。戦闘機人故にそれはコンピューターそのものとすら言えるほどだ。 しかし彼女には柔軟性という人間として決定的なものが欠けていた。 「カードの方も偽物だ」 憎々しげに吐き捨てる。そう言いながらカードもしっかりと手放さずに握りしめているのだが。 「オリジナルはおそらく何らかの不死生命体のようなものから力を汲み出す装置のようなものだったんだろうが、これは魔力を通せば特定の効果が発動するだけの、ただのデバイスだ」 デバイスカードといったところか、と漏らすスカリエッティ。 ウーノにはやっぱりついていけなかった。 「これもレンゲルクロスという名前らしいことは分かったんだがね……」 偽物なのが残念だ、と言いながら弄り回す。しかし何だかんだ言いながら、スカリエッティはそれをいたくお気に召しているらしかった。 彼の顔に張り付いた笑みが、それを証明していた。 「失礼します」 そこに現れる新たな影。 「どうしたんだね、セッテ」 影の正体は、薄桃色の可愛らしいストレートヘアに似合わない無表情を浮かべた少女だった。 彼女、セッテはスカリエッティ奪還には参加せずに秘密基地の確保に向かったナンバーズであり、彼女を含めた四名が今スカリエッティの元に残ったナンバーズである。本来は12名もいたため、今は三分の一に戦力が低下していた。 「ラボのシステムが完全に復旧しました。これで全ての部屋に動力が供給されます」 「御苦労、休んでいてくれたまえ。これからまた忙しくなるからな」 「ドクター、これから何かなさるのですか?」 その言葉に、ウーノが素早く反応した。 「当然だ。良い玩具も手に入ったことだし、ゲームでも始めようと思ってね。機動六課には借りがあるんだし、もうすぐ解散するそうだから、いっそのこと”消してしまえばいい”と思ってね」 ウーノの言葉に顔を醜く歪めながら答えるスカリエッティ。だが彼の視線はウーノにではなく、レンゲルクロスの横のカプセルに注がれていた。 そう、レンゲルクロスに似た、三つの機械に。 「ドクター……。いえ、わかりました」 ウーノは答える。そう、彼女は決してスカリエッティには逆らわない。彼女は他の愛し方を知らないのだから。 ・・・ 久しぶりに会ったフェイトとティアナとの夕食。それが終わった俺は、外に出て空を眺めていた。 記憶。 そう、俺は、重要な記憶をいくつか思い出していた。 まずは本名。剣崎一真という己の名。 そして自らの正体、正確には仕事。それが、仮面ライダー。 最後に、俺が戦う理由。 それは、イーグルアンデッドとの戦いが思い出させてくれた。 (そうだ。俺は、母さんや父さんの時みたいに後悔したくない) 脳裏に過る灼熱の業火。明るく弾ける我が家と、光に押し潰される両親。何も出来ずに打ちひしがれるだけだった幼い過去の自分。 ようやく思い出せた、自らの存在意義。 (俺が例え何者であろうと、人々を守らない理由にはならない) それが、ようやく分かった。 まだジョーカーとして活動していた頃やライダーとして戦っていた頃の記憶は曖昧だが、今はこれで十分だ。アンデッドが発生している原因を突き止め、この世界の人々を守る。それを決意することができたのだから。 そうして自分の気持ちに整理をつけ、隊舎に戻ろうとした刹那―― 「――動かないで」 凛とした声が、俺を押し止めた。 ・・・ ついに本来の力を取り戻したカズマだが、そんな彼に彼女が戦杖を突き付ける。 そして二人の前にあの男が立ちはだかる――! 次回『火焔』 Revive Brave Heart 目次へ 次へ
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窮奇退治は昌浩の完治まで、延期が決定した。敵はあの大妖怪、なるべく万全の状態で挑みたい。 昌浩が養生している間、一度だけ彰子が見舞いに来た。 自分がさらわれたせいで、昌浩が重傷を負ったと彰子は酷く気に病んでいた。 昌浩は彰子は励まそうと、必死に明るい話題を振った。その中で、彰子が蛍を見たことがないと言った。蛍の時期はとうに過ぎていたので、ならば来年一緒に蛍を見に行こうと昌浩は約束した。 その間、ヴィータが歯ぎしりせんばかりに不機嫌だったのに、昌浩は最後まで気がつかなかった。 数日もすると、昌浩は起き上がれるようになった。激しい運動は厳禁だが、それ以外の行動は大体許されている。シャマルの治癒術は本当に素晴らしい。出来るなら教えてもらいたいくらいだった。 昌浩は書物と睨めっこをしながら、円盤状の物体をからからと回していた。 「何してんだ?」 ヴィータが昌浩の手元を覗き込む。 昌浩が目が覚めましてからというもの、ヴィータは食事を運んでくれたり、何かと世話を焼いてくれる。あまりに優しいので、昌浩の方が戸惑っていた。 「これは占いの道具なんだ。窮奇の居場所が占えればと思ったんだけど」 結果は芳しくない。それにこれくらいのことは晴明がとっくにやっているだろう。晴明すらわからないことを、昌浩がわかるわけない。 「占いねぇ」 ヴィータは占いという奴がどうも信じられない。未来が本当に予知できるなら、未来はすでに決まっていることになる。努力するもしないもすべて決まっている。ならば、心は何のためにあるのか。 「あ、疑ってるな。よし、ならヴィータの未来を占ってやる」 昌浩が道具に手を伸ばす。 「おもしれぇ。やってみろ」 円盤がからからと回り、結果を示す。昌浩はじっとその結果を読み取ろうとする。 無言のまま、時間だけが過ぎていく。 「おい」 昌浩は真剣な顔のまま答えない。そのあまりに真剣な様子にヴィータが不安になる。 「まさか、よくない結果が……」 「ごめん。わからない」 「うーがー!」 ヴィータが吠えた。 「さんざん待たせて、なんだよ、それは!」 「ご、ごめん、だって見たことない形だったから」 昌浩は本で頭部をかばう。 「もう少し時間をちょうだい。きっと占ってみせるから」 「まったく。それでも晴明の孫かよ」 「あー! ヴィータまで孫って言ったー!」 「いやー。この台詞一度言ってみたかったんだよ」 「孫言うな!」 憤慨する昌浩を、ヴィータはきししと笑う。ふとその顔が疑問に染まる。 「お前、今何て言った?」 「孫言うな」 「その前だよ」 「えーと、ヴィータまで孫って言った、だったかな?」 「お前、名前……」 「ああ、ヴィータだよね。やっと言えるようになったよ」 昌浩はにっこりと笑う。 「いやぁ、苦労したよ。毎晩ヴィータ、ヴィータ、って繰り返し練習して」 ちなみにザフィーラの名前はまだ練習中だ。 「ヴィータ。これで合ってるんだよね?」 ヴィータの拳が昌浩の頭を叩く。 「な、何すんだよ、ヴィータ」 昌浩が頭を押さえてうずくまる。 ヴィータは拳を握りしめたまま、全身を震わせていた。 「ヴィータ?」 「気安く呼ぶんじゃねぇ!」 ヴィータが再び拳を振り下ろす。その顔が真っ赤に染まっていた。 「どうしたの、ヴィータ?」 「だから、繰り返すな~!」 ドタバタと暴れる音が屋敷中に響いていた。 「いやー。春だねぇ」 「夏だがな」 「連日快晴だねぇ」 「それはその通りだ」 もっくんとザフィーラは、昌浩の部屋の屋根の上で並んで日向ぼっこをしていた。 「昌浩についていなくていいのか?」 「そんな野暮はせんよ」 もっくんが後ろ脚でわしわしと首をかく。本人に自覚があるかどうかは知らないが、ヴィータの気持ちは傍から見れば明らかだ。 「すまんな。気を使わせて」 「いや、昌浩にとってもいいことだ」 「ほう。もっくんはあの彰子とかいう娘を応援しているのかと思ったが?」 「おっ。堅物かと思いきや、話せるねぇ。ただし、もっくん言うな。俺のことは騰蛇と呼べ」 「心得た」 「それで彰子に関してだが、結論から言って、あの二人は絶対に結ばれない」 もっくんは一転、厳しい表情になる。 「どういうことだ?」 「身分が違い過ぎる。かたやこの国一番の貴族の娘。かたやどうにか貴族の端に引っかかっている昌浩。あり得ないんだよ、この二人が結ばれるなんて」 「身分とはそんなに大事なのか?」 しょせん同じ人間ではないか。気にするほどの差があるとザフィーラには思えない。 「そうだな。お前たちの主は女か?」 ザフィーラの緊張が一気に高まる。 失言だったと、もっくんは詫びた。 「お前たちの主を詮索しようとしたわけじゃない。例えば、お前たちの主が女だったとしよう。もしお前が主に恋愛感情を抱いたら、どうなる?」 「なるほどな」 ザフィーラは遠い目になった。彼のはやてを敬愛する気持ちに、一片の曇りもない。しかし、それは決して恋愛感情ではない。 ザフィーラはあくまで守護獣、人間ではない。そんな自分と主が結ばれることはない。それなのに、主に恋心を抱けば、それはまさに地獄だろう。 「つまり、この国で身分とはそれほどの差ということだ」 しかも、彰子と天皇の結婚の準備が進められているという。晴明の占いでも、それはすでに決まった運命ということだった。もし運命を変えられる力があればと、もっくんは己の無力をこれほど呪ったことはない。 失恋から立ち直る一番早い方法は新しい恋を始めることだ。昌浩を好きなヴィータがそばにいてくれれば、これほどありがたいことはない。 「しかし、我らは……」 「わかっている。窮奇を倒したら帰るんだろう。それでもいいんだ。立ち直るきっかけになれば。それに二度と来れないわけじゃあるまい?」 「それもそうだな。その時は主も連れてこよう。きっと喜ばれる」 そう、きっと大丈夫だとザフィーラは思った。いつか主を含めた全員でこの地を訪れることができる。その時は、闇の書も完成し、主の命も助かっている。時空監理局から追われることもなくなっている。 我ながら虫のいい考えだと知りながら、そんな未来が来るのを願わずにいられない。 ザフィーラともっくんは雲一つない空を見上げた。 その頃、庭ではシグナムが見知らぬ女と対峙していた。女は黒い艶やかな髪を肩のあたりで切りそろえ、この時代では珍しい丈の短い服を着ている。十二神将の一人だろう。 六合と稽古の約束をしていたのだが、六合の姿はない。 「私の名は勾陣(こうちん)。六合は晴明の供で行ってしまってな。代わりに私が来たというわけだ」 「そうか。では、今日の相手は勾陣殿が?」 「ああ。せっかくだから、少し趣向をこらさないか?」 勾陣は三つ叉に別れた短剣を両手に持ち、宙を切り裂いた。空中に裂け目が走り、シグナムの体がその中に吸い込まれる。 シグナムが目を開けると、そこは砂と岩ばかりの荒涼とした大地が広がっていた。 「次元転移?」 「ここは我ら十二神将が住む異界だ。稽古もいいが、ここなら思う存分暴れられるぞ」 勾陣が口端を釣り上げる。氷のように鋭い酷薄な笑みだった。 シグナムも勾陣と同じ笑みを浮かべる。 「なるほど。より実戦的にというわけか」 「それと最初に言っておく。私は六合より強いぞ」 「面白い。では、いざ尋常に勝負!」 シグナムのレヴァンティンが炎をまとい、勾陣の魔力が炸裂する。 普段は静かな異界に、その日はいつまでも爆音が轟いていた。 夕刻、帰宅した晴明は昌浩の部屋に向かった。天皇と彰子の結婚が正式に決まったということだった。後は日取りを決めるのみ。今すぐということはないが、もはや二人の結婚は避けられない。 薄々感づいてはいたのだろう。昌浩は「そうですか」とだけ呟いた。 それからさらに数日が過ぎた。 昌浩は表面上は明るく振舞っていたが、時折沈んだ表情や物思いにふけることが多くなった。そして、以前にもまして窮奇を倒すべく猛勉強を始めた。まるで勉強に打ち込むことで、何かを忘れようとしているかのように。 早朝、昌浩は目を覚ますと素早く着替える。怪我の為、長期休みになってしまった。同僚にも迷惑をかけたし、今日は出仕するつもりだった。晴明から頼まれた仕事もある。 「よし。完全復活」 「ほう。よかったじゃないか」 今日はよほど早起きしたのか、ヴィータが戸口に立っていた。 「うん。これもヴィータたちのおかげだよ。本当にありがとう」 シャマルの魔法とヴィータの看護がなければ、まだろくに動けなかったに違いない。 「いやー。そう言ってもらえると、こっちもありがてぇよ」 ヴィータはのしのしと部屋に入ってくる。ヴィータは指で昌浩に座るように示す。 「大事な話?」 昌浩はまだ気づいていない。ヴィータの目がまったく笑っていないことに。 ヴィータは深く息を吸い込み、 「この大馬鹿がー!!」 大音量が安倍邸を揺らした。昌浩は耳を押さえて顔を引きつらせる。 ヴィータは指を鳴らしながら、昌浩に詰め寄る。 「お前が治る日を、どれだけ待ったことか。怪我人を怒鳴りつけるのは趣味じゃないからな。これで思いっきりやれる」 晴明から託された昌浩を叱る役をヴィータは忘れていない。それどころか世話を焼くことで、怒りが鎮火しないようにしていたのだ。ヴィータの怒りは最高潮に達していた。 「あの……ヴィータさん?」 「やかましい! そこに正座」 「はい!」 「大体お前は自分が怪我をしてどうするんだ。助けるにしたって、もっと上手くやれ!」 「いや、でも」 「言い訳するな!」 「ごめんなさい!」 ヴィータが機関銃のように怒鳴り続ける。昌浩はそれを黙って聞くしかなかった。 それから一刻の後、もっくんが昌浩の部屋を訪れと、晴れ晴れとした顔でヴィータが出てきた。 「いやー。ようやくすっとしたー」 もっくんが部屋の中を覗き込むと、そこには真っ白に燃え尽きた昌浩がいた。 その夜、昌浩が仕事を終えて帰ると、シグナムたちは晴明の部屋に集められていた。 「昌浩や。彰子様には会えたのか?」 「はい」 昌浩は寂しげに笑う。晴明の取り計らいで、昼頃、昌浩は彰子と対面していた。そこで昌浩は彰子に絶対に守ると誓った。誰の妻になってもいい。生涯をかけて彼女を守る。それが昌浩の誓いだった。 「それで窮奇の居場所は?」 「はい。貴船山だと思います」 都の北に位置する貴船山。そこには雨を司る龍神が祭られている。 窮奇が北に逃げたのと、ヴィータたちが来てからというもの、一度も雨が降っていない。それが根拠だった。おそらく窮奇によって封印されているのだろう。 「ならば、一刻の猶予もないな」 シグナムにとって、ここは楽園だった。六合や勾陣、他の神将たちとも、実は紅蓮とも、幾度も手合わせした。こんなに心躍る相手がいる世界をシグナムは知らない。 「そうだな」 ヴィータとて離れがたい気持ちはある。 しかし、八神はやてを救う為、二人は未練を振り切って立ち上がる。 「はやてちゃんの為にも、お願いね、みんな」 シャマルが転送の準備を開始する。それをザフィーラが咳払いで遮る。 シグナムとヴィータがじと目でシャマルを見つめていた。 「あっ」 うっかり、はやての名前を口に出してしまっていた。だらだらと脂汗がシャマルの顔を滴る。ちなみに、ヴィータは以前自分がはやての名前を出しことを覚えていない。 「わしは何も聞いておりませんぞ。なあ、昌浩や」 「えっ? ……ああ、はい。俺も何も聞いてないよ」 「二人とも、気を使わせてごめんね」 シャマルが涙目で感謝の意を告げる。 やがて緑の魔法陣が足元に出現する。 昌浩、もっくん、シグナム、ヴィータ、ザフィーラが、最終決戦の場へと飛んで行った。 その頃、アースラ艦内では、クロノたちが出撃の準備を進めていた。 「それでヴォルケンリッターの動きは?」 「それが変なの」 クロノの質問にエイミィが首を傾げた。 「あの世界、時間の流れが全然違うみたい」 アースラでは、クロノたちが青龍たちと戦ってから、一晩しか経っていない。それなのに、向こうでは半月以上の時間が経過しているようだった。 どうもその間、ヴォルケンリッターたちは原住生物と戦い続けているらしい。 「闇の書もかなり完成に近づいたということか。みんな、準備はいいか?」 クロノが集まったメンバーを見回す。 ユーノにアルフ、青い顔をしたなのはとフェイト。 「な、なのは、どうしたの?」 ユーノがなのはの顔を心配そうに覗き込む。 「ちょっとイメージトレーニングを」 なのはは車酔いをしたかのようにふらふらしていた。 青龍に備えて、父と兄に怒られた時のことを一晩中ずっと思い出していたのだ。 「フェイト、しっかりおしよ」 「……アルフ、大丈夫よ」 フェイトの使い魔のアルフが、フェイトの体を揺さぶる。それにフェイトは消え入りそうな声で答えた。 「エイミィ」 クロノが無言で逃げようとしていたエイミィの腕をむんずとつかんだ。 「フェイトに一体何をした?」 「ええと、頼まれてあの戦いの映像をちょっと……」 フェイトはフェイトで、あの戦いの映像を一晩見続けたのだ。しかもエイミィの好意で、男連中の顔を大写しにした編集版を。 苦手意識を克服しようと無理をすれば、かえって悪化する場合がある。なのはたちの負けず嫌いが今回は完全に裏目に出た。 クロノはユーノとアルフをつれて、部屋の隅に行った。 「いいか。男連中の相手は僕らでやる。二人には絶対に近づけるな。最悪、一生のトラウマになる恐れがある」 ユーノとアルフが決意を込めた表情で頷く。 そして、五人は転移を始めた。 目次へ 次へ
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リリカル・コア外伝第2話「騎士と鴉」 「えーと、今日の分の日誌はこれで良し、後は月例報告に添付する画像はと……」 エリオ・モンディアルは自身に割り当てられた端末と向かい合って格闘していた。 「あのデータ、何処に入れたかな……?」 機動六課在隊時に当時スターズ分隊副隊長だったヴィータに仕込まれたとは言えまだまだぎこちない。 エリオにとってはこのようなデスクワークよりも訓練、そして今ではキャロやルーに及ばないとは言えそれなりに 心を通わせれるようになった自然保護区の動物達と交流しているほうが落ち着くというのが本音である。 「あった。これを添付して……」 「エリオ、ちょっといいかい?」 「タントさん?どうかしましたか?」 「ちょっとね」 書類を作成後、提出し裁可して貰う現在の上司に声を掛けられる 「すいません、書類にはもう少し時間がかかりそうなんです……」 「ああ、それはまだいいよ。でも来たばかりの頃に比べれば大分此処にも業務にも慣れてきたね?」 「はい、おかげさまで」 六課解隊後、エリオはキャロと供に自然保護隊へ異動した。 エリオには他の三人と違い、前任部隊は無く、陸士部隊―特に一線級部隊から―からの引く手数多であったが、 結局自身の希望を通してもらう形で自然保護隊への転属となった。 六課解散後から一年と少し、牧歌的な“後方部隊”と揶揄されることもある辺境自然保護隊とは言えど、密猟者等の 追跡や捜査も一義的には任務として負っており、密猟者と向き合えば立派に“前線部隊”となる。 そんな中対密猟者戦において自然保護隊内の専門部隊以外、数少ない取り締まりも出来る保護官として実績も上げていた。 騎士として鍛練は一日も欠かさず行い、六課時代よりも上達のテンポは少し遅くなったものの、今では誰もが一目置く 自然保護隊最強の一角である。 「ちょっとお願いがあるんだ」 「お願いですか?」 「そう、ちょっとした荷物の受け取りに行って欲しいんだ」 「荷物の受け取りですか?それじゃあフリードと一緒に……」 「いや、そんなに大きくないから一人で大丈夫だよ」 タントが言葉を区切る。 「荷物って何なんですか?」 「時々大きな規模で発生してる“蟻”の話は聞いてるね?」 「“蟻”って……、まさか……?」 「うん、そう。“バグ”。幾つかの世界で猛威を振るう“蟻”さ」 “蟻=バグ”。 何者かが作り出した生物兵器とされ、女王を中心とした集団、つまり蟻に似た組織を作り地中深く潜み、 時々現れては人間の生活圏を脅かす生命体。 「やっぱり人の手による物……、何でしょうか?」 「おそらくね、自然の生命体がその世界以外で同種が確認されるのは極めて稀、自然保護隊や過去の記録を見ても殆ど無いよ」 「この世界への流入があったんですか?」 「まだだよ、でも大分前に“蟻”が一つの都市を壊滅させた時、何者かが開発した極めて強力な駆除剤を使用したんだ。 そのおかげでその都市の“巣穴”の“蟻”を全滅させれたんだ」 その都市の住人はは殆ど死亡したんだけど……、タントが付け加える。 「荷物というのはその駆除剤の事ですか?」 「やっと生産が軌道に乗って此処にもそれが回ってくるということさ。備えあれば憂いなし。でも物が物だから受け取りに 行って欲しいんだ」 「でも、あれって人の手が入った生命なんですよね?研究元を叩かないと……」 「ああ、それなら君の保護者さん達がやってるよ」 「フェイトさんですか?」 「……くしゅん!!」 「風邪ですか?」 「うーん、違うと思うけど……。何て言うんだっけ?」 「……人が噂してるから、ですか?」 「そうそれ」 (フェイトさんなら四六時中誰かが噂しててもおかしくないと思うんだけど……) ティアナが当然の疑問を脳裏に思い浮かべ、すぐにそれを打ち消す。 「えーと、報告の続きですが、“バグ”といわれる生物兵器群の開発元とされるケミカル・ダイン社ですが クローム社の解体後、グループ企業だった同社の企業内の研究内容は細切れにされ散逸、 何処にあるかも分かりません」 「あー、それじゃこの線は望み薄?キサラギの方が望みが在るかな?」 「そうでもありません。ケミカル・ダイン社の実験施設と思われる施設の場所の特定に成功しました。そこには まだ稼動中の記録媒体があるかもしれません。つまり……」 「どこで“実地試験”をしていたかが分かると……。さすが、ティアナ、よく分析したね」 「これぐらい出来なければ執務官補の名が泣きますから。でもコイロス浄水場で発生した生物ですか? これも生物兵器って言われてますが……。なんでこんなものばかり作るんですかね、人って……」 ティアナはため息一つ、フェイトも同じ気持ちだった。 鉄道貨物ターミナル。列車の引込み線にクレーンが聳え立ち、周囲には色取り取りのコンテナが並ぶ、そしてコンテナを 積載するためのトラック・ヤード……。 普段こじんまりとした場所を中心に動くのに慣れたエリオにはこの貨物ターミナルの広さは圧巻であった。 「広い……、この施設だけで六課の施設ぐらいの敷地ぐらいはありそう」 タントに示された荷物保管所だけでもエリオの観点からすれば大きい部類に入る。 「すいません、荷物の受け取りはこちらですか?」 受付と思しき場所を見つけそこに明らかに暇をもてあましている係員 「はい、どちら様でしょう?」 「時空管理局自然保護隊、エリオ・モンディアル一等陸士です」 受付の顔に一瞬驚きが走る。だがそれも一瞬、すぐに仕事の為の顔に戻る。 一応は自然保護隊の制服を着用しているとは言え自分がおそらく管理局員として驚かれているのではなく、かつての 機動六課の隊員の一人として驚かれているのにエリオは慣れていた。 「積載されたコンテナはわかりますか?」 「特別仕立てのコンテナって聞いてるんですが……」 係員が端末を向き、 「それでしたら……。えー、管理局使用のコンテナですが次の列車で到着するとの事です」 「次のって、どのくらいですか?」 「まあ、後四十分程度ですね」 「エントランスで待たせて貰って良いですか?」 「どうぞ」 係員の言質を取り、エントランス内で適当な場所を見つけ、そこに座る。 あまり危険は感じられず、リラックスできる空間。冷房が効き過ぎずなおかつ暑くない申し分無しの場所。 だがエリオは自分がこの敷地内に入ってからずっと監視されていたのに気付いていた。 (外の車両に一人、監視カメラ、警備員がエントランスと廊下の向こうに二人ずつ……。ストラーダ、他には?) 《建物の外、小隊規模の“有明”を確認しています》 念話でストラーダに確認。しかし高々一等陸士を監視するにはあまりに物々しい警備。 (僕ってそんな危険人物に見える?) 《もしくは別の何かを警戒してるのでは?》 (うーん、ストラーダ、一応記録しておいて) 《Ya》 「間も無く着くそうです。一応契約上、コンテナの封印を解くのをお願いします。解除手順は分かりますか?」 「大丈夫です。ストラーダ、コードは分かってるよね?」 《Ya》 この係員がエリオを見て驚くのは二回目。デバイスを使ってることに驚いたようだ。一応民間では警備・巡察等を除く、 通常の任務では攻撃的なデバイスの所持・仕様には一応の規制が掛けられている。 重要な荷物の受け取りとは言え、通常の任務の観点から見れば取るに足らない任務である。デバイス、特に六課謹製の ストラーダは過剰といえば過剰な装備であるといえる。 「いいデバイスですね?」 「……?ありがとうございます」 係員がそういったのは皮肉かそれとも正直な感想かエリオには分からなかった。 建物の外、強い日差しが降り注ぎ敷かれたコンクリートを熱していた。 各区画を結ぶ連絡路の一つをエリオは職員の誘導に従い、その中を歩く。 自身の歩く先、目的地と思しき場所までには“有明”が二機、着座していた。 (ストラーダ、周囲の状況は?) 《“有明”の小隊に動きはありません。我々を見ているのは監視カメラのみです》 取り越し苦労だったのか、一応彼らが注目しているのは別の何からしい。 「あの、此処って何時も警備は厳重なんですか?」 エリオが自分を先導する職員に聞いた。 「さあ、何処もこんなモノだと思いますよ?」 職員の答えは素っ気無いモノだった。その答えが疑わしい物であるのは明々白々。 (タイミング、悪かったかな……?) エリオの思考が巡ろうとした時、周囲の平和な空気が一変した。 電柱に着きえられたスピーカから何者かの襲撃を伝える警報と警告。 『管制塔より全職員へ、敵性飛行体が接近、所定のシェルターへ移動せよ。繰り返す……』 「……え?」 まさかの事態に思わず素っ頓狂な声を上げる。管理局の質の悪い冗談でもこんな事はない。 「……状況は?……こちらも避難させた方が良いのか?」 先導の職員が手持ちの端末で確認していた。 (ストラーダ、通信を聞ける?) 《可能です》 ストラーダから直に送られてきたのは管制塔と警備小隊の交信。 <管制塔、接近に気が付かなかったのか!?> <NOEで接近された。レーダーの探知が遅れたんだ!!> <前衛より各機、機種を確認した。“ウェルキン”無人攻撃機だ> <こちら管制塔、全火器の使用を許可、繰り返す……> <リーダー了解。小隊全機、施設への被害を最小限に抑えろ> 最後の通信と同時に“有明”が動いた。 エリオの正面に着座していた二機はほぼ同時に起動し、右手に持つサブマシンガンを発砲。 発砲音が空気を震わし、さらに排夾されたカートリッジの地面に落ちる音が響く。 思わず耳をふさぎ、頭を下げた。 だが目は周囲を確認し、体は自然とひざを曲げ、半屈の姿勢をとり、次の動きに備える。 エリオ達の後方から別の音が聞こえ振り返る。後方にいた一機が背部のブースターを点火、地面の コンクリートに脚を擦り、火花を上げながらこちらに向かっていた。 「危ない!!」 通過した一機は寸前で跳躍、二人の上を影を残し通過していった。 エリオと職員、二人とも顔の前で腕を組んで通過の風圧に耐える。 その次に来たのは弾幕を抜けた“ウェルキン”が一機、航過していく。 機体下面に装備された大口径機関砲は一機の“有明”を狙う。が、狙われた機は半身を取って寸前で回避。 “ウェルキン”は狙った機体に回避されたとはいえまだ地上に攻撃する目標はあった。 エリオと職員、“有明”に比べれば容易な標的。 「……不味い!!ストラーダ!!」 『Sonic form』 子供とは思えないような力と爆発的な加速で以って自身と職員を射線上から退避させる。 つい先ほどまで居た空間を機関砲がなぎ払い、破片をばら撒く。 (……あれ?) 職員の体に接触した時、、そして抱えた時、職員の体は妙に堅く、普通の人間とは思えない違和感を持っていた。 (ボディーアーマー?それに……拳銃型のデバイス?) 違和感の正体はすぐにわかった。職員は着ていた作業服の下にボディーアーマーを着込んでいる。 さらに右の腰には外側からは簡単に判らないように拳銃型のデバイス、さらに予備弾倉を携帯していた。 (一般職員までここまで武装をしている?) そもそも一般職員が武装するのであればそれは着用する必要は殆んど無い。 警備班が警報を鳴らした後にでも装備を付けさせれば良い。“普段の業務”では戦闘装備は不要な物だ。 だが此処に居るのは本当に一般職員なのか?手際よく管制塔への連絡を取った手腕、落ち着いた交信内容。 しかもただのターミナルにしては豪華すぎる警備小隊の“有明”配備……。 (もしかしたら……) おそらくはこの襲撃を此処の職員達は知っていた、もしくは予期していた可能性に思い至る。 建物の陰に隠れ、職員を下ろし、建物を盾に周囲を見渡す。 しかし襲撃側の狙いはなんなのか?皆目見当が付かなかった。 「此処は危険です!!」 端末を耳からはずした職員が叫ぶ。エリオは現実に引き戻される。 かれのその声は耳には入っている。だが目は空を飛ぶ“ウェルキン”を追い、耳は聞きながら周囲の 闘騒音を拾い、頭は周囲の状況を組み立てる。 「これがテロであれば管理局員として見逃すわけにはいきません!!手を貸します!!」 「しかし、此処は社有地です!!管理局員といえど礼状や所有者の許可無くデバイスを使用するのは……!!」 職員の言葉は正しい。しかしエリオには違う教えがあった。 「……大丈夫ですよ」 努めて表情を殺し、低く落ち着いた声をだそうとする。 「……な、何がですか?」 職員の顔が引きつった。 成功だ。エリオは内心ガッツポーズ。 「例えどんなのが相手だったとしても!!……ストラーダ!!」 騎士甲冑の着用は人前で裸をさらすようなもの。が、いまはそんな贅沢は言ってられない。 (最初の発光で目をつぶっていますように……) エリオはそう願いつつ、騎士甲冑を着用、待機状態から実体化したストラーダを握り、振るう。 「降り掛かる火の粉を払って!!……まずはお話を聞いてもらうんです!!」 吐き捨てるように叫ぶとストラーダで以って加速、空に舞う。 エリオは航空魔道士ではないがストラーダを使えば限定的な空戦は可能。 「ストラーダ、敵の数は!?」 空に上がったと同時に周囲を確認、自分の目にも見えるがストラーダのセンサー系の方が広く全周をカバーできる。 『“ウェルキン”を十機以上確認。警備の“有明”は敵味方不明とします』 ストラーダが眼前に索敵結果を表示。テロリスト側は“ウェルキン”、こちらは敵性を示す赤。 “有明”は六機、こちらも味方とは言い切れないが一応は味方に近い緑の表示。 <こちらターミナル管制塔!!エリオ・モンディアル一等陸士へ!!状況への介入を依頼していない!!直ちに退去しろ!! 繰り返す!!直ちに退去しろ!!……退去しない場合は貴官もテロリストとして対処する!!> 管制塔からの警告。 「時空管理局、エリオ・モンディアル一等陸士です。場所と状況は承知しています。 ですが今は人手が少しでも必要なはずです!!」 <こちらリーダー、管制塔へ。その通りだ。手駒は多いほうがいい。ロハであの“機動六課”が手助けしてくれるんだ。 最高の援軍だろ?> 此方は警備小隊のリーダーらしき機体からの通信が割り込む。ご丁寧に管制塔と自機の場所を送ってきた。 管制塔の位置はエリオからそう離れていない。しかもご丁寧に敵機の動きも付いている。 ストラーダが自身のデータを更新、表示した。 <リーダー、指揮権は此方にある!!余計な事を言うな!!> 管制塔の指揮官らしき男が叫ぶ。 <……所長!!来ます!!> 管制塔を目標に定めた“ウェルキン”が居た。数は二機、機首を管制塔に向け、機関砲の射程距離まで猶予は無い。 「……!!」 ストラーダが噴射ノズルを制御、エリオはそれに併せ方向変換と増速の動作をとる。 両手でストラーダを保持、コートをはためかせ一直線に“ウェルキン”に向う……、のではなく、少し軌道をずらし 管制塔を掠める軌道を取る。 <……待て、一体何を……> 管制塔の内部の人間がこちらを見る。 真横を通過する瞬間、ストラーダの噴射を停止、さらに急制動。 一瞬、体が浮いた。再びストラーダの噴射を再開だがあくまで一瞬だけ強力な姿勢制御用の噴射。 足が堅い物を踏む。地面ではなく、管制塔の強化ガラスを足で強く踏む。 「ストラーダ!!」 『Sonic form』 見せ付けるようにガラスを蹴り、再び加速、狙うのは前方の二機。 おそらく管制塔はストラーダの煙で視界は遮られている。 “ウェルキン”は突然の乱入者に臆する事無く機関砲を向け発砲。 機首下面のが光る寸前にエリオとストラーダはランダムで噴射を繰り返し接近。 相対速度の関係で接触するまではほんの一瞬、手の届くような距離にまで接近すればよし。 飛び道具を殆んど持たないエリオにとっては相手に以下に早く接近するかが一番重要なこと。 速度を保ったままストラーダの穂先に魔力刃を展開、すれ違いざまに一機の翼を切り落とす。 もう一機は標的をエリオに変更、急旋回に入るがエリオのほうが動きが早い。 急旋回のため速度を落とした“ウェルキン”の機体のほぼ中央にストラーダの魔力刃を突き立てる。 二機撃墜。戦果を確認すること無く、エリオは着地。地上で気配を殺し、絶えず周囲に目を配る。 何機かの“ウェルキン”が“有明”の十字砲火を受け墜落していくのが見えた。 <子供にしては良くやるようだ。だが……> 先ほどのリーダー機からの通信。強い敵意は感じられない。だが歓迎をしているとは感じられない声音。 <だが覚えておけ、お前はあくまで無許可で戦闘しているということだ。ああ、一応此方とリンクさせろ そっちの方が都合がいいだろう?> 『Ya』 ストラーダがエリオの代りに返答を代行、データリンクを表示。 「手出ししないほうが良かったかな?」 『降り掛かる火の粉は自分で払うのでは?』 ストラーダの返答。もしかしたら自分はとんでもない越権行為に手を染めてるのではないか? 疑問が脳裏をよぎる。 だが、今はそれを考える時ではない、疑問を頭から振り払い次の“獲物”に視線を定める。 「ストラーダ!!」 ストラーダが応える。不安定な飛行ではあるが、それを可能にするのはエリオとストラーダの相性の良さと 一人と一機のポテンシャルの高さ。 このコンビにとってガジェット並みかそれ以下の無人兵機など物の数ではない。 戻る 目次へ 次へ
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本SSはグロテスクな部分がありますので、ご注意ください。 リリカルVSプレデター (前編) 広大な宇宙には人類が知り及ばぬモノが数多と存在する。 あるいは未知の異次元世界であり、あるいは思念のみで形成された意識体であり……そしてあるいは人類以外の知的生命体。 そう、“彼”は正に人類以外の知的生命体の種族だった。 爬虫類系生物から進化した彼の種族には、他の知的生命体にはない野蛮で常軌を逸した風習がある。 それは“狩猟”、それも生存の為の捕食としての狩ではない。それは生き甲斐とさえ呼べるほどの純然たる闘争欲求を満たす為だけのモノ、ただ殺す為の殺し。 彼の種は永き時に渡りこの狩りを脈々と行ってきた、あらゆる惑星のあらゆる生命体を相手に。 そして今回彼が向かったのはとある惑星、人型哺乳類種の支配する星だった。 彼は鈍色に輝く小型宇宙艇の中から目標の惑星を見た。眼下に広がる蒼は海の色、生命を育む海のものである。 だが彼の視界には鮮やかな蒼など映らない、当たり前だ彼の種族の可視光線に青色は見えないのだから。 彼は赤だらけの視界で目の前の星を見つめる。 この惑星の形態は一般的な通常生命体が生存している星、特徴として魔法体系の技術が進歩しているらしい。 データによれば他世界へ超空間を用いて移動する程度には科学技術もあるようだ、まあそれなりに知性はある。 彼が今度の猟場にここを選んだのはまったくの気紛れだった、そして胸中で『手ごたえのある獲物がいると良い』と密かに思う。 惑星の情報や装備を確認すると、彼は宇宙艇のコントロールパネルに大気圏突入の為のコードを打ち込んだ。 大気圏に突入した船が向かう先はこの星の中でも取り分け大きな都市“クラナガン”の上空。 こうして、ミッドチルダに最強の狩人が舞い降りた。 △ 閑静な住宅街、その中の一軒の家に人だかりができている。 近所の住人にマスコミ等の報道関係者、多くの野次馬が平和な町で起こった血生臭い事件見たさに集まったのだ。 家の中には捜査を担当している陸士108部隊が、事件現場を調査している。 そして108部隊に所属する少女、ギンガ・ナカジマは鼻腔を付く凄まじい悪臭に耐え難い吐き気を覚えていた。 それは、たっぷりの血臭に外にぶち撒けられた内臓が長時間放置されて腐った臭い。 屠殺場で動物を殺し解体したような壮絶な異臭だった。 だが事件を捜査する立場上、臭い如きに屈するわけにはいかない。 ギンガは意を決して事件の被害者の遺体がある部屋へと足を踏み入れた。 そして、朝食を食べ過ぎた事をこれでもかと後悔する。 「ウプッ!」 胃から込み上げてくる酸味を含んだ味が口内に広がる、嘔吐を耐えるのがこれほど苦痛だと感じた事は生まれてこの方無かった。 口元をハンカチで押さえて必死に喉を上がってくる嘔吐物を押さえ込む。 目元には幾筋かの涙も流れている、そんな彼女の肩に上司の男性がそっと手を置いた。 陸士108部隊捜査主任ラッド・カルタス、ギンガより遥かに事件慣れした彼は凄惨な現場の様にも顔色を変えず彼女に心配そうに声をかけた。 「大丈夫か? 無理に見る必要はないんだぞ?」 「ええ、大丈夫です……これくらいでへばってられませんから」 青い顔でそう言っても説得力などなかったが、ナカジマ家の頑固さは部隊長のゲンヤとの付き合いで嫌と言うほど知っていた。 恐らく自分がいくら言ってもギンガは現場をしっかり検分するだろう、彼女のその様子にカルタスはいくらか諦念をこめた溜息を吐く。 「分かった、止めはしないが無理はするなよ?」 「はい」 自分の身を案じてくれている彼の言葉に、ギンガは青い顔で儚げな微笑を浮かべた。 だがカルタスは優しい言葉だけでなく、しっかり捜査主任としての注意も忘れなかった。 「それと、吐くならなるべく部屋の隅でやってくれ。せっかくの現場が汚れる」 「うう……はい」 「では行くぞ、遺体は向こうだ」 カルタスはそう言うと、ギンガを先導するように歩き出す。そして、凄まじい死臭の元である部屋の奥に行けばそこには地獄絵図が広がっていた。 目の前の光景にギンガの中で吐き気と嫌悪感と恐怖が最高潮を迎える。口の中に満ちた酸っぱい味を抑えるのはもう我慢の限界だった。 「ギンガ、吐くなら向こうだ」 彼女の様子を察したカルタスは壁の方を指差す。調査するべき物の無い壁際ならば捜査官の嘔吐物がいくらかあっても問題ないという判断での指示だ。 ギンガは彼に従い、壁の方に駆けてそのまま胃の中身をぶちまけた。 普段は冷静沈着な彼女の乙女らしい様子にカルタスはいくらか苦笑しつつ、そっとハンカチを渡す。 「だから無理するなと言ったろ?」 「す……すいません……」 「良いからこれで拭いて、せっかくの綺麗な顔が台無しだ」 「はい……ありがとうございます……」 ギンガは彼から受け取ったハンカチで口元を拭い、涙を零しながら頭を下げた。 近代ベルカ式の使い手で、108部隊有数の猛者である彼女の弱弱しい姿に思わずカルタスの口元に苦笑が宿る。 「まあ、無理もないか……こんな現場じゃ……」 ギンガにも聞こえない程度の声でそう漏らしながら振り向けば、そこにはこの事件の被害者の遺体があった。 それはワイヤーで逆さに吊るし上げられており、全身の皮を剥がれていた。 遺体は、本来人体を覆うべき外皮を全て剥ぎ落とされており皮下組織の下にある筋繊維が剥き出しになっている。 外皮を剥がれた屍はさらに腹部を切り裂かれて内臓をぶち撒けられ、滴る赤で大きな血溜まりと臓物の山が形成していた。 悪臭の元はこの腐った内臓、そこには蝿がたかり蛆が湧いている。鑑識班が死亡状況を調べる為に採取したと言うのにまだ屍肉食の虫共は骸を貪っていた。 そしてもう一箇所目を引く場所、それが頭部だった。 遺体の頭は普段あるべき形、頭蓋骨の持つ丸みを失っている。それもその筈だ、屍からは頭蓋骨が抜き去られていたのだから。 それは見事な手際だった、遺体の頭部が形状をある程度保ったまま中身の頭蓋だけ取り除かれているのだ。 後頭部から顔面の前面までパックリと開かれた鋭利な割れ目からは空虚な闇だけが広がっている。 正に地獄絵図としか形容できない凄惨な状態。例えギンガでなくとも嘔吐を催さずにはいられないだろう。 凄惨極まる悪鬼の所業、しかしこんな事件がクラナガンで起こるのは初めてではない。 「これで20件目か……いったい誰がこんな事をしているんだ?」 △ 夜のネオンが光る時刻、時空管理局ミッドチルダ地上本部施設の一角、局員がよく利用するカフェに一人の女性がいた。 燃えるような鮮やかな緋色の髪をポニーテールに結い、女性的な美しさに満ちたたおやかな肢体を茶色の管理局制服で包んだ美女。 この女性こそ、地上本部首都航空隊に所属する夜天の守護騎士シグナムである。 シグナムはテーブル席に腰掛け、新聞片手にホットコーヒーで満ちたカップを傾けていた。 休憩時間にここでブラックコーヒーを飲みながらゆっくりと過ごすのは彼女の日課である。 今日もそうしてコーヒーの味を楽しみながら、紙面で報じられている昨今の事件などに目を通していた。 そんな彼女に一人の男の影が近寄り、テーブルの隣の席を引いた。 「隣、良いっすか?」 「ああ、構わんぞ」 茶髪の青年に彼女はそう答える、青年は了承を得ると隣に腰掛けて彼女と同じブラックコーヒーを注文した。 彼は同じ部隊に所属するシグナムの部下ヴァイス・グランセニック、狙撃手兼ヘリパイロット。 入隊時からシグナムの下に就き、彼女の事を“姐さん”と呼び慕う好青年である。 こうして彼と暇な時間を共にするのも良くある光景だ。 ヴァイスはウェイターが持って来たコーヒーを啜りながら、彼女の読んでいる新聞を横合いから眺めた。 「何か面白い事でも載ってます?」 「ん? ああ、最近クラナガンで多発している連続殺人事件の事がな……」 クラナガン魔道師連続殺人事件、それはここ数ヶ月間クラナガンを恐怖のどん底に落としている怪事件だった。 殺されるのは決まってデバイスを持った者、それも屈強な武装局員ばかりが被害にあっている。 そして被害者の遺体は皆、逆さに吊るされたうえに生皮を剥がれ内臓を抜かれ頭蓋を奪われ、凄惨極まる状態になっているらしい。 起きた事件は20件以上、被害者は30人以上にも上る。 事件を担当している陸士108部隊に所属するギンガの話では“この世のものとも思えぬ所業”だそうだ。 事件現場周辺で“透明の怪物を見た”とか“悪魔が人を殺していた”等の目撃証言が度々報告される事から、俗な雑誌では悪魔の仕業とすら書かれていた。 また奇妙な事に、現場近くに居合わせた女性や子供そして重篤な病気を疾病した者は誰一人として殺されていないのも事件の特徴だった。 「また起きたみたいっすね、その事件」 「ああ」 「やっぱテロリストとか反管理体制主義者の仕業っすかねぇ」 「いや、それはないだろう。それならば犯行声明が出る」 「じゃあ異常者とか?」 「かもな……」 二人がそんな会話をしているところに、突如としてデバイスからけたたましいアラーム音が鳴り響く。 デバイスを取り出してみれば緊急招集のアラートが表示されている、どうやらコーヒーブレイクは終わりらしい。 「さて、休憩時間は終わりのようだ」 「みたいっすね」 二人はそう言うと席を立ち、部隊のヘリ格納庫へと向かった。この日最強最悪の狩人に出会うとも知らずに。 △ 夜の闇の中で煌めく光があった。 クラナガンの都市部から幾らか離れた場所にある廃棄都市区画、無数の朽ち果てたビルがあるそこで数多の火の花が咲いているのだ。 あるいは銃口から咲き誇る銃火(マズルブラスト)であり、あるいは曳光弾が闇を切り裂く閃光であり、あるいは魔力弾が作り出す光だった。 それはある犯罪者集団、先ほど大規模な強盗事件を起こした無法者共と彼らを逮捕する為の来た武装隊との戦いである。 強盗共は銃火器で武装した者が30、デバイスで武装した者が10という大所帯。そのうえ全員が相応の訓練や実戦を積んでいるらしい。 手練れの武装隊も攻めきれずに苦戦しているようだった。 「オラオラオラ!! 死にさらせ糞がぁっ!!」 ツバを撒き散らして叫びながら強盗団の一人が遮蔽物から身体を出して銃を乱射。大口径の軽機関銃の銃口からオレンジ色の銃火と共に大量の弾丸が吐き出される。 撃ち出された弾丸の内何発かはフルオートの反動で標的となった武装局員を外れて周囲のコンクリート壁にめり込んだが、大半は狙い通りにきっちりと命中した。 武装局員の展開した防御障壁を高硬度の金属製弾芯を有して高貫通能力を持つライフル弾が削っていき、十発目にして完全に破壊。 バリアジャケットで覆われた武装局員の身体にめり込んだ。 「がはぁっ!」 叫びと共に吐血、内臓深くにこそ達しなかったものの銃弾のもたらす人体破壊は絶大だった。 たたらを踏んだ後に、被弾した武装局員の男はその場で倒れる。激戦地で倒れた彼は正に格好の的。 血に餓えた犯罪者共はその狂った照星(サイト)の照準で狙いを付けた。 「マイケル!!」 絶体絶命の仲間に武装局員の一人が危険を顧みず、遮蔽物にしていた廃車の陰から顔を出して叫んだ。 引き金が絞られ、銃弾の雷管が叩かれて薬莢に詰められた遅燃性火薬が燃焼するまで一刹那。 人の命が無造作に奪われる寸前、その時一つの影が舞い踊った。 瞬間けたたましい音と共に炸裂する銃声、金色の薬莢を地面に転がしながら硝煙と銃弾の狂想曲を織り成す。 絶命必至の過剰殺傷、着弾の衝撃で巻き上がる土煙、勝利の愉悦に銃撃を行った男は下卑た汚い笑いを浮かべて口元にだらしなく唾液まで垂らした。 だが、煙が晴れた時現れたのはミンチになった死体ではなく燃えるような緋色の髪を揺らした美女の姿。 剣を片手に立つその姿はさながら戦場に舞い降りた戦の女神か、形容し難い美しさだった。 「ナニ!?」 男の口から思わずそんな呟きが漏れる。突然割って入って女が現れたのもあるが、これだけの銃弾を受けたというのに相手が無傷であるという事実が衝撃を与えた。 彼女はただ正面から銃弾を受け止めたのではない、銃弾の軌道を反らす為に傾斜を付けた高硬度障壁を多重展開して受け流したのだ。 よっぽど腕の立つ魔道師でもなければこんな芸当はできないだろう。故に男に与えた驚愕は深い。 男は手にした軽機関銃では相手を破れぬと即座に判断、背に担いでいた個人携帯用の使い捨て式ロケットランチャーに手を伸ばした。 「遅い!!」 女性は叫ぶと同時に跳躍、飛行魔法を行使して相手に高速で接近する。既に男は彼女の間合いの内にいた。 鮮やかな緋色の髪を揺らし、宙を舞いながら横薙ぎに刃を振るう様は幻想的な美しさすら有している。 そしてランチャーを発射する為に安全ピンを外す暇すら与えられず、男に彼女の振るった炎の刃が一閃。 男の意識は燃える刃で闇の底へと刈り落とされる。手にした銃火器を地に落としながら、男の身体は倒れ付した。 「安心しろ、殺しはせん」 彼女はそう言いながら、剣に這わせた魔力の炎を払う。 武装局員の仕事は犯人を殺傷する事でなく無力化して捕縛する事だ、絶命せぬように手心は加える。 そんな彼女に、先ほど銃弾に倒れた武装局員を介抱しながら隊員が声をかけた。 「すいませんシグナム隊長」 「気にするな、それより早くマイヤーズを医療班の元へ連れて行け」 「ですが、隊長だけ残してはいけません」 「ん? 誰が一人と言った?」 部下の言葉にシグナムが答えた刹那、高出力の魔力弾が発射される音が鳴り響く。 何が起こったのかと周囲を見渡せば、100メートルほど離れたビルの屋上で倒れる影が一つ。 それはシグナム達にロケットランチャーの狙いを定めていた強盗団の一人だった。 「ヴァイスがいる」 彼女がそう言って空に顔を向ければ、ヘリの後部ハッチから狙撃銃の銃身を覗かせてこちらを見下ろす狙撃手が一人いた。 ヴァイスは200メートル以上離れた場所をホバリングし空中静止しているヘリから見事な狙撃を見せた、正にエース級の腕前である。 「私はヴァイスと一緒に先行した部隊と合流する、早く撤退しろ」 「は、はい! お気をつけて」 負傷した仲間を担いで撤退する部下に一言残し、シグナムは先行して強盗団と戦っている部隊の元へと駆け出した。 手にした剣に炎を纏わせポニーテールに結われた緋色の髪をたなびかせて美しき女騎士がさらに激しい戦場へ向かう。 そして、ビルの一角からそんな彼女を見つめる狩人が一人。 それはまるで陽炎だった、特殊なフィールド発生させて光を曲げて自身の姿を隠す擬態能力、光学迷彩によるステルス化である。 彼のヘルメットの機能が赤外線によって熱分布を映像化したサーモグラフィによってシグナムの姿を映し出す。 狩人はその目で獲物に狙いを定めた、絶世の美女にして勇ましい女騎士を。 今しがた離れた場所で戦闘を行っている者達も含めて、どうやら今夜の狩りは賑やかになりそうだ。 異星より来た狩人は予想よりも遥かに多くそして狩り甲斐のありそうな獲物に胸を熱く滾らせた。 続く。 目次へ 次へ
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何処の町にでもある、通りの小さなコーヒーショップ。 夜はバーとなる店で主人がカップなどを磨いていた。時間的に今は空いてる時間。 そんな店のドアを客が開く。タンクトップにズボンという格好の女性だった。 「やあ、スミカ穣ちゃん、いらっしゃい」 「やっほー、オヤジさん、いつものコーヒーセットね」 店の主人らしき人物と顔見知りなのかスミカと呼ばれた女性は なれた足取りでカウンター席に着く。 「仕事はどうだい?」 「最近はあがったりよ。管理局がうるさくてね・・・」 出されたコーヒーをブラックで啜りながらスミカは答える。 「この間の荷物の護送の時もそう。なんか知らないけどいきなり荷物を見せろ、 これは密輸品の疑いがあるから押収するとか言い始めてさ。 嫌になるわよ、お堅いお役所連中は。あなたもそう思うでしょう、コーラルスター?」 <イエス、マスター> 首から提げたドッグタグ状のデバイスが答える。 「ははは、昔から変わってないって事だな。お代わりは?」 貰うわ、そういいながらスミカはコーヒーカップを渡す。 「そうそう、この間、スミカ穣ちゃんに会いたいってのがきたよ」 「仕事?どんなのだった?」 スミカが歳に似合わず目を輝かせ、身を乗り出して聞く。 「いや、会いたいってだけだったな」 「どんなのが来た?政府?企業?個人?まさか非合法組織?もうごめんよ、非合法は」 「いや、子供が二人、さ」 それを聞いた途端、スミカがカウンターに突っ伏す。 「最悪・・・」 どうしたどうした?ファンの子かも知れんじゃないか?」 自由に生きて行く存在であり、実力のあるレイヴンは子供にとって憧れの的だ。 特にスミカのような地域密着型のレイヴンは特に遠い存在である レイヴンという存在を身近に感じれる存在であるのだから。 「うー、オヤジさん、レイヴンのジンクスって知ってる?」 「うん?おいおい、俺も元傭兵魔導士だ。知ってるよ。えーと・・・」 そう言うと主人は腕を組んで考える。 「えーと、『報酬全額前払いの仕事に気をつけろ』か?」 「違う」 「じゃあ、『同業者の依頼に気をつけろ』?」 「ハズレ」 「『楽観的な依頼主に注意しろ』?」 「『子供の持ってくる依頼?受ければ大事件に巻き込まれるさ』よ」 「・・・はっはっは!!なるほどな!!確かにそうだ!!」 ツボにはまったのか主人は腹を抱えて笑っていた。 そんな主人を見ながらスミカは頬杖をついて溜息ひとつ。 「これからどうすんだい?」 ひとしきり笑った後、店主が聞く。 「コーラルスターをちょっと見てもらってくるわ。最近無理をかけてたからね」 「最近『ヴァーテックス』とか言う連中がレイヴンを集めているみたいだが?」 「この間、ネットでメールが着たわ。私はパス。非合法はもうごめんよ」 「合法の管理局も増員してるみたいだが?」 「もっとパス」 そんな他愛無い会話をしていた時だった。 店のドアが開いた。客が一人入ってくる。 「いらっしゃい。」 入ってきたのはスーツ姿で長髪の金髪の女性だった。 店主は歳を二十代前半と読んだ。 もし男性客がいたらほぼ間違いなく全員の視線が集まるであろう。 それぐらいの美人だった。出るところは出て窪む所は窪む。最良のスタイルである。 「隣、いいですか?」 「隣?いいわよ」 どうやらスミカに用があるようだった。 「ご注文は?」 「グリーンティーはありますか?無ければコーヒーを」 ひとつの仕草が絵になっている。こいつはエリートだな。主人は目星をつけた。 だが一番気を引いたのは魔力反応だった。 「スミカ・ユーティライネンさんですね?それにコーラルスター?」 「そうだけど、仕事の依頼?何にせよ、その前に名乗るのが礼儀じゃない?」 「失礼しました。私はフェイト・T・ハラオウン。時空管理局・第7管区統括執務官です。 こちらはデバイスのバルディッシュ」 主人は出そうとしたグリーンティーの入った湯飲みを落としそうになった。 スミカは椅子からずり落ちそうになって、寸での所で止まる。 「どうぞ」 だが肩書きを聞いても臆せず湯飲みを出せるのは主人の積んできた経験か。 「ありがとう。あ、ミルクと砂糖はありますか?」 「・・・ミルクと砂糖ですか?」 さすがの主人も面食らったようだ。 こんな驚いたのは久しぶりだな。グリーンティーに砂糖とミルク?口直しか? 主人はそう思いながらミルクと砂糖を差し出す。 金髪の女性、フェイトと名乗った女性は二つを受け取ると砂糖とミルクを グリーンティーに注ぎ始めた。 スミカと主人は顔を見合わせる。 二人の目は、冗談でしょ?高い茶葉なんだが・・・。そう言っていた。 「いいお茶ですね?」 一口啜るとフェイトは口を開いた。 「あ、ありがとうございます」 香りや旨みが分ってるんだろうか?昔、会った管理官はこんなやつだったっけ? 店主の疑問は尽きなかった。 「スミカさん、少しお話を聞きたいんですが」 「悪いけど仕事に関しては話せないわよ」 「私が聞きたいのは、『ファンタズマ事件』についてです」 スミカの顔色が変わる。 「さらに話したくないわね」 「話し難いのは分ります。ですが、私達の知りたいことは『不死鳥』についてです」 「まさか彼を管理局に引き込もうとしてるの?止めたほうがいいわ」 こりゃこじれそうだな。店主は二人の話を聞きながら思った。 「いえ、話がしたいだけです」 「どんな?」 「『未踏査世界・アビス』について、そしてジャック・Oについて」 「これは任意の協力?それとも強制協力?」 「あくまでも任意です。もちろん、無料とは言いませんが・・・」 スミカは溜息をつく。 「オヤジさん、お代、ここに置いとくね」 「あ・・・」 フェイトが止めようとする。 「ここじゃ何だから、場所を変えましょう」 「わかりました。マスター、代金はここにおいてきますね。おいしかったですよ」 「ありがとうございました。またどうぞ」 「やれやれ、統括執務官とはね。偉いのが来たもんだ」 二人を見送った後、カップを下げながら主人は一人語散る。 「あ、サイン貰えばよかったな・・・、ま、もし二十年若けりゃ相手するんだがなぁ・・・」 そんなことすりゃ女房に殺されるな・・・。場違いな感想を思いついた。 目次へ 次へ
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* 「人間じゃ、ない……?」 フェイトの発した台詞にジョーカーの体を強ばらせるカズマ。フェイトは彼を抱き締めたまま、その顔は見えない。 彼女がどんな表情で自らを“人間ではない”と言うのか、それをカズマは知ることが出来ない。 「フェイトちゃんは人間だよ!」 「なのは、私はそういう意味で言ったんじゃないの。うん、母さんやなのはのお陰で私は生まれが特殊でも生きてこれた。今でも感謝してるよ」 「生まれが……じゃあ、フェイトはどうやって――」 「――今から話すよ。カズマには、聞いてほしいから」 腕をほどいたフェイトが、カズマに向けて小さく微笑みかけた。 それが、彼女の話の始まりだった。 リリカル×ライダー 第十二話『来訪者』 「プロジェクトFATE――――それがフェイトの出生の秘密なのか」 「……うん」 彼女が話した一つの計画。 時空管理局には組織を束ねる中枢機関、最高評議会と呼ばれる存在があったらしい。 彼らは管理局が質量兵器、つまり銃などの兵器を禁止しているため常に戦力不足であり、そのため次元世界の治安を守り切れない状況だった。そんな現状を打破するために、彼らはある計画を始動させた。 ――プロジェクトFATE 後にプロジェクトF、又は人造魔導師計画とも呼称されることになるこの計画とは、人為的に魔導師を生み出そうとする計画だった。 何故魔導師を生み出す計画になったのかというと、魔導師になれる人間は全体の三割程度で、更に才能ある魔導師となるとその中の数パーセントしかいないからだそうだ。なのはやはやては地球という本来魔導師の生まれない星で誕生した変わり種らしい。 また魔導師の魔導師たる所以である魔力精製器官『リンカーコア』を人為的に再現できないのも理由らしい。周辺の霧散魔力を集積、倍加させる魔力炉や一時的に魔力を充填して魔法の発動を強化、促進するカートリッジなどがあるものの、魔力そのものを生み出すことは出来ないそうだ。 話を戻すが、この計画を遂行する人材を確保するために最高評議会は古代の遺伝子操作技術を用いてある天才を作り出した。 ――ジェイル・スカリエッティ。 彼は遺伝子レベルでこの計画を遂行しようとする意思が刻み込まれており、その最高レベルの知能を発揮して計画を進めた。 彼が取った手段はクローン技術。魔導師をクローニングし、記憶を転写することで魔導師そのものを複製するというものだった。 元々、最高評議会は遺伝子操作技術で計画を進める予定だったため、スカリエッティもその方面に長けた人物になるよう調整されていたのだ。 「今は最高評議会もメンバーが変わったし、計画自体も戦闘機人計画に変わって廃れてしまったんだけどね」 フェイトが疲れたように息を吐く。所々なのはも助力しながら説明された話は、俺には理解し難いややこしい内容だった。 しかし重要なのはこれからだ。 「その計画とフェイトがどう関係するんだよ?」 フェイトが視線を下げる。そこでなのはがフォローするように口を開いた。 「計画自体はさっきも言うように破棄されたの。けれど、ある人がその計画を引き継いだ結果、計画は別の形で続行されることになった。その人が――」 「――私の、母さん」 引き継ぐように、フェイトが重い口を開いた。 「母さんは娘をなくしていて、我が子を生き返らせるために計画を引き継いだの。けれど、結局生み出されたのは失敗作だけだった」 「失敗作、って……」 俺の顔から血の気が引くのを感じる。いつの間にか、俺の体はジョーカーから人間の姿に戻っていた。 「私、だよ。その娘と同じ外見、記憶を持ちながら全くの別人になってしまった失敗作。試験管から生み出された人の形をした異形【ホムンクルス】」 「そういうことか……」 プロジェクト名をそのまま付けられたのは、おそらく失敗作としての烙印だろう。娘の名を授ける気も起きなかったのか。 「……くそっ!」 彼女には本当の親がいない。俺は死んだとはいえ覚えているが、彼女には覚える親の顔さえないのだ。 「でも平気だよ。今は私を大切にしてくれる母さんや親友がいるから。それに私は自分を生んでくれた母さんも好きだから」 そう言って笑うフェイト。 彼女は乗り越えたのだろう。他人には想像も出来ないほどの地獄を、親友や多くの人に助けられながら。 「だから今度は、カズマは私が助ける」 最初はなのはを傷付けた俺に敵意を剥き出しにしていた彼女が、次第に見舞いにも来るようになり、今はこんな俺の手を握って温かい言葉をかけてくれる。 だからこそ、気付いてしまった。 「――ありがとう。けど、俺はここには居れない」 「どうして!?」 フェイトの顔から目を反らして手を見る。俺は誰かに守られる存在でもなければ、ましてや人と共に存在できる体でもない。そう、この手は―― 「――全ての人々を、守るためにあるんだ」 そのためには、何かを求めてはならない。これは無償の戦いだ。例えそれが、目に見えないものだとしても。何か大切なものを作ってしまったら、俺の戦いも終わってしまうから。 そう、こんな所で立ち止まってはおれない。 ――――ドクン。 人々を、守らなければ。 ・・・ カズマがアンデッドを封印するために六課を出た次の日、はやてはまたもや頭を抱えたくなるような事態に直面していた。 「フォォォォォウ!」 意味不明な叫び声を上げる男。先程フェイトちゃんのスポーツカーと違って趣味の良いデザインの車が六課に突っ込んできたのだが、それに乗っていたのがこの男だった。 「いやぁ、入局申請? みたいなのをするために来たつもりが事故の処理をやる羽目になるとはねぇ」 椅子にふんぞり返りながらそんなことを言う男。 アンタが原因だろ、とは言わない。はやては大人なのだ。 「取り敢えず管理局保安部には連絡しておきました。それで、どういった御用件でしょうか」 極めて事務的に、かつ口調を固めに言うはやて。彼女としては、さっさと要件を済ませて出ていってもらいたいのだろう。 だがこの男、アロハシャツに丸いサングラスといった奇抜な外見や奇妙な言動からも分かる通り、一筋縄ではいかない。 「へぇ、キミが部隊長? やっぱり美しいモノは皆好きだよねぇ。けど怖い顔してると美貌も台無し、やっぱ誘うなら笑顔でなきゃ」 「……真面目に答えて下さい」 というより、話が通じなかった。 「いやぁ、管理局に入りにきたのよ。就職、ってヤツ?」 はやては目の前の男を鋭く睨み付ける。冗談にしか聞こえない口調で言っていい内容ではない。少なくとも、はやての前では。 だが彼女は大人だ。どれだけ内心怒り狂っていようとも、公の場では笑顔すら装う。 「管理局は非常に大きな組織です。入局されるのでしたら地上本部で身体検査、心理テスト、学力テストを受けて最適な部署を紹介してもらってください。ここでは募集は行っておりません」 ポーカーフェイスのまま、事務的な内容を告げるはやて。彼女は本人すら気付かぬ内に身構えながら、簡単な地図を描いた紙を差し出す。 「ではお引き取り――」 「――仮面ライダー、ここにいるんだよなぁ?」 その台詞に、はやてのポーカーフェイスは砕け散った。 彼女の頭に浮かぶのは前回の戦い。彼女の愛しい守護騎士が傷付いた、あの戦闘。 『俺は、仮面ライダーだ!』 カズマが放った、あの言葉。 「実は知り合いなんだよねぇ、ちょっと顔を見たくてさぁ」 「カズマ君のことを知っとるん!?」 はやての手は自然と、男の襟首に向かっていた。 「ちょっと過剰じゃない? スキンシップがさぁ」 「何を知っとるんや!? カズマ君はいったい何者なんや!」 魔導師では歯が立たなかった怪人を倒したカズマを思い出すはやて。彼女は彼が普通じゃないことに薄々感付いていた。記憶が戻りつつあることも。 だが彼女はそれを聞くことはできない。聞けばカズマはもうここに居れなくなってしまうから。 彼女は、部隊長なのだから。 「教えてや! 私は、私は知りたいんや!」 「ふぅん? 仮面ライダーって、こっちでも人気なんだ?」 そんな彼女を見ながら笑みを深める男。いつしかその笑みが危険なものになっていることに、はやては気付かない。 「じゃあさ、こうしようか」 「……なんや?」 「ライダーが来るまでに俺を倒せたら、とか」 その瞬間、彼女の体が三メートル先の壁まで吹っ飛んだ。 「ッ! かはっ、けほっ」 「今日は助けてくれる奴、いないんだろ? 二人でお楽しみってわけだ。フォォォォォウ!」 いつの間にか、男の外見は変化していた。 凶悪な面に羊を思わせる双角。左右非対称な体、白い右側の体は肩から真っ直ぐ歪角を伸ばし、白い羊毛で覆われている。 その名はカプリコーンアンデッド。 彼が上級アンデッドと呼ばれる存在であることを、はやては知る由もない。 「まさか、怪人やったなんて……」 吹き飛ばされた直後にデバイスがオートで起動したため、彼女の体は白黒のバリアジャケットに保護されていた。それでも装甲板を埋め込んだ壁をへこませるほど衝撃は、彼女を苦しめた。 「怪人? 違うな、俺達はそんな名前じゃない」 心底愉快気に笑うカプリコーンアンデッドは太く逞しい右腕を振り上げ、掌を拳の形に変えていく。 「俺達はアンデッドって言うんだぜ? フォォォォォウ!」 その右腕を、勢いよく振り下ろした。 「――ッ!」 はやても十字架を模した杖型デバイス、シュベルトクロイツを構えながらプロテクションを発動させて受け止めるが、その凄まじいパワーにじりじりと圧されていく。 「フォォォォォウ!」 さらに左腕も駆使しての連撃を放つカプリコーンアンデッド。その怪力によって打ち出される拳撃は単純なパンチにも関わらず凶器と呼べるレベルである。 特にはやては六課でも屈指の魔力量を生かした大規模魔力爆撃が得意な後方支援型だ。なのはのように砲撃がメインながらあらゆるレンジを対処出来るタイプとは異なる。 そのため近接戦では無類の強さを誇るアンデッドとは余りにも相性が悪すぎた。 (せやかて、こんな所で私は負けられないんや!) 少しずつ後退しながらもはやては新たな魔法の術式を起動させ、足元に正三角形を元にした魔法陣を展開させる。 「刃を以て、血に染めよ。穿て、ブラッディダガー!」 詠唱によって術式を発動させる。 その瞬間、カプリコーンアンデッドを囲むように12の血に染まったような紅い短剣が出現する。 「行け――!」 それらが一気に中心点を屠るべく迫る。 「グォォォォオ!?」 カプリコーンアンデッドの全身にブラッディダガーが突き刺さり、さらに爆発を以て傷口を抉る。 それに対しカプリコーンアンデッドは今までの喋り方からは想像も出来ないような獣じみた呻き声を上げる。 「今の内に……」 はやてが素早く部屋の隅に備え付けられた警報装置を作動させようとする。だが―― 「なんで!? なんで作動せんのや!」 「テメェ、痛ぇじゃねぇかよ! 可愛い顔して舐めた真似してくれちゃってよぉ!」 作動しないスイッチを叩くはやてを後ろから襟首を掴んで強引に持ち上げるカプリコーンアンデッド。 その右腕を、ぎりぎりと握り込む。 「やっぱり女って汚いよなぁ。前も女に騙されて殺られたが、今度はそうはいかねぇ!」 カプリコーンアンデッドは舐めるようにはやての顔を眺め、そして彼女の腹に向けて拳を打ち込む――! 「フリジットダガー!」 その瞬間、カプリコーンアンデッドに氷で作られたような蒼く透き通ったナイフが幾重も刺さった。 「グォォォォオォォォ!?」 その傷口は瞬く間に凍り付いていき、カプリコーンアンデッドの動作を阻害する。 はやてはそれを見て弛んだ手から脱出する。 「リィン! 気付いてくれたんか!」 「もちろんです~! はやてちゃんを守るのがわたしの務めですから!」 リィンが場にそぐわない明るい笑みを浮かべる。妖精のような外見だから余計に場違いだ。 しかし、そんな笑顔も一瞬で暗いものに変わった。 「ただどこからか分かりませんけど、六課のコンピュータがハッキングをかけられて各設備が使用できなくなってます。ロングアーチスタッフはその処理に追われててんてこ舞いですよ~」 (それが原因やったんか……) いったい誰が、と思考を続けようとするはやて。 しかし彼女がそんな思考に埋没できる時間はない。 「舐めてくれちゃってよぉ。いい加減ブッ殺さないと気がすまねぇなぁ!」 「リィン、ユニゾンや!」 「はいです!」 立ち上がったカプリコーンアンデッドに対抗すべくユニゾンデバイスたるリィンが本領を発揮する。 光り輝き出したリィンがはやてに溶けるように消えていくと同時にはやてを光が包み、髪の色や黒が基調のバリアジャケットを白く染め上げていく。 カプリコーンアンデッドとはやての戦いが、始まった。 ・・・ 「はぁ、はぁ、はぁ――――」 目の前で斬り伏せたジャガーアンデッドの腹部にあるバックルが二つに割れる。その割れ目にはスペードの刻印と9という数字が刻まれている。 俺はアンデッドに向けてカードを放ち、封印する。鮮やかな躍動感のある豹の絵が描かれたカードを確認しながら俺は後ろを向いた。 (おかしい。あの感じは上級アンデッドだったはずなのに……) 今回のアンデッドの反応は妙だった。現れては消えを繰り返すもので、探すのにかなりの時間を費やしてしまった。 しかし今封印したアンデッドの反応だったとは思えない。あれは上級アンデッドのものだった気がするのだ。 (おかしい……) 嫌な予感がする。何か忘れているような、大切なものを放っておいてしまっているような――。 そんな俺の視界に、何かが滑り込んだ。 「また会ったな、剣崎」 「た、橘さん!?」 現れたのは橘さんだった。しかも今回はバイクに跨がって。 そのバイクは―― 「ああ、お前のだ。あの伯爵に頼まれたのでな。今は従うしかないので届けに来た。感謝しろ」 不快そうに眉を潜めながらそう話す橘さん。だが今回ばかりは全く気にならなかった。 ――ブルースペイダー。 あらゆる不整地を走行出来るように計算された高い車体。蒼いカウルで保護された車体。そして最大の特徴たるスペード型の青いスクリーン。 かつての愛車であり、たった一人で戦っていた頃も共にいてくれた相棒。 「……なんで、橘さんが?」 「俺は届けに来ただけだ。次に会うときは殺し合う仲、お前と話すことなんてない」 本当に鬱陶しいんだと言わんばかりにヘルメット(それも俺が使っていたものだ)を脱いでハンドルに引っ掛け、バイクを降りる。 「さっさと行け、お前がベストのコンディションで戦えないと俺も気分が悪い」 「どこに行けと言うんですか?」 「知るか。自分で考えろ」 記憶と随分違う橘さんの言動に戸惑いつつ、話の内容を咀嚼する。 (まさか、六課が……!) 辿り着いた結論は、嫌なものだった。頭の悪い俺の結論にも関わらず、外れている気がしない。 「すいません、行かせてもらいます!」 俺がブルースペイダーに跨る。セルでエンジンを起動させ、クラッチを握りながらギアを一速に切り替える。 橘さんは何も言わずに何処かへと去っていった。 その背中を見届けた後にアクセルを少しずつ捻りながらクラッチをゆっくりと開き、緩やかに、だが徐々に加速させながら走り出した。 ・・・ 「はぁ、はぁ、はぁ……」 はやてが苦し気に息を吐きながらシュベルトクロイツを構え直す。 対照的にカプリコーンアンデッドは腕を軽く振りながら軽い足取りではやてに迫ってきていた。 はやてがリィンとユニゾンしてから、すでに15分が経過していた。 「健気だねぇ、まだ抵抗を止めないとは」 じりじりとあちこちが凹んだ壁へと追い詰められるはやて。バリアジャケットが傷付いて露出した、赤みがかった白い肌を舐めるように見回すカプリコーンアンデッド。 先に動いたのは、はやてだった。 『「フリジットダガー!」』 はやてとユニゾンしているリィンの声が重なるように発されるのと同時に、部屋の各所から水晶のように透き通った冷気を帯びるナイフが幾つも出現する。 それらは目にも止まらない速度でカプリコーンアンデッドに飛来する。だが―― 「ハァァアァ!」 カプリコーンアンデッドが吐き出した青いエネルギー体が、それらを弾き飛ばした。 「くっ……!」 はやてはエネルギー体の突撃をプロテクションで防ぐが、吹き飛ばされて壁に激突してしまう。 「フォォォォォウ!」 カプリコーンアンデッドが止めを刺すべく右手を振り上げる。 その時だった。 「りゃあああぁぁぁ!」 強化ガラスを突き破って、カズマがブルースペイダーに乗ったままカプリコーンアンデッドに突撃した。 「――ッ!?」 ウィリーによって持ち上げられた前輪にかかった力学的エネルギーはカプリコーンアンデッドを容易く吹き飛ばすに足るものだった。 「大丈夫か、はやて!?」 「カズマ君……」 『カズマさん来てくれたんですねっ! リィンはちゃんと信じていましたよ!』 カズマがブルースペイダーから降りつつはやてとリィンの元に行こうとする。 しかし一足早かった者がいた。 「あぐっ!」 その影は太い腕をはやての首に回し、そのまま縛り上げる。 「ベルトを下に置け! さもないとこの女が死ぬぞ?」 影の主、カプリコーンアンデッドは愉しげな声でそう言った。 その台詞、光景に何故かカズマは既視感を覚える。この吐き気のするような光景に。 「卑怯な!」 「五月蝿い! お前のせいで俺はこんな目に遭ってるんだからお前も痛い目を見ろ!」 「何のことだ!?」 「覚えてないとでも言うか!? なら今すぐ思い出させてやる!」 怒り狂ったカプリコーンアンデッドははやての首を絞める腕に力を込めていく。その太い腕と対照的に細いはやての白い首が嫌な音を上げ出す。 「あっ、あ、ああ……」 「はやて!」 「さっさとベルトを置け!」 カズマがカプリコーンアンデッドを睨み付けるが、意にも解さず笑みを浮かべながら首を絞めていく。 だが、この時三人は後一人の存在を忘れていた。そう、はやての中にいるもう一人の存在を。 『フリジットダガー!』 突然はやての内側から舌っ足らずな叫びが上がる。 「な……!?」 その瞬間、カプリコーンアンデッドの真上に出現した氷の刃が彼の脳天を貫いた。 「今だ!」 カズマがそこでショルダーチャージをかけて吹き飛ばす。その腕の中には、救出されたはやてがいた。 「か、カズマく――」 「はやて、離れてくれ。俺はあいつを倒す!」 「……」 はやては一瞬不満そうな表情を浮かべるが、状況が状況故に素早く身を離す。 カズマは醒剣ブレイラウザーのカードホルダーを展開し、二枚のカードを抜き出す。 『KICK,THUNDER』 スラッシュされた二枚のカードから引き出される力は混ざり合い、コンボという名の必殺技へと昇華される。 『――LIGHTNING BLAST』 カプリコーンアンデッドが、ゆらりと立ち上がった。 その動作と同時にカズマはブレイラウザーを地面に突き刺し、彼の元に走る。 カプリコーンアンデッドはそれを見ながら慌てて腕をクロスさせて防御態勢を取る。 カズマはジャンプによって得られた位置エネルギーと、カードによって得られた雷撃の力を、強化された右足に込める。 「うぉあああぁぁぁぁ!」 それを、容赦無くカプリコーンアンデッドに叩き付けた。 「ウォォォォオッ!?」 その力によって、彼は壁をひしゃげさせるほどの勢いで吹き飛ばされる。 カシャンという軽い金属音。 カズマは静かに、『Spade Q』を封印した。 ・・・ 戦いが終わって、ようやく私は応接室を見回す余裕が生まれていた。あまりの酷い惨状に泣きたくなるだけだが。 何だかんだで私も頑張ったと思う。数少ない近接魔法を駆使し、苦手なんてもんじゃないクロスレンジをどうにか戦い抜くことが出来たわけだし。 それはそうと、今は聞きたいことが山ほどあった。カズマ君に。 「――なぁ、カズマ君」 「はやて、大丈夫か? 全身傷だらけだし……。くそっ、俺の帰りが遅れたばっかりに――!」 けれど、こんなに他人のために一生懸命なカズマ君を見ていると、何だかどうでも良くなってきた。まるで往年のなのはちゃんみたいな……って、それは本人に失礼か。 「私は大丈夫や。今リィンが回復魔法をフル稼働中やし。それよりロングアーチに連絡を取ってくれんか? そこの受話器が使えればええけど、無理なら直接行ってくれん?」 「ああ、わかった」 そう、私は大丈夫。私は部隊長、こんなところで倒れるようじゃ『奇跡の部隊』を率いることなんて出来ない。 しかし今回のハッキングを行った者が誰か、それが問題だ。ロングアーチにハッキングするほどの実力者で、怪人に協力できる者。心当たりは、二人いた。 これは捜索を急いだ方が良いかもしれない。 そう思考していた私の元に、唐突に“轟”というエンジン音が耳に入る。 顔を上げた先には、今日二人目の来訪者がいた。 「剣崎、ようやくお前と戦う時が来たようだな」 その来訪者は―― 「――紅い、『仮面ライダー』?」 真紅の配色ながら、カズマ君の変身した姿とそっくりなバリアジャケットを纏っていた。 細部は確かに違う。頭はカズマ君のが一本角なら二本角になっているし、肩のアーマーなども形状が違う。 そして似ているのはカズマ君のバリアジャケットとだ。何故なら、不自然なまでに腹部や肩が何かを塗り潰すように装甲が貼られているからだ。 「橘、さん……」 「剣崎、後でお前に通信を送る。そこに一人で来い。誰か一人でも連れて来ればあの悲劇がここで起きることになる」 「あの悲劇――?」 「お前がかつて己の体をかけて止めた悲劇だ」 そのセリフで、カズマ君の表情が変わった。 「いいな?」 「待ってください、橘さん!」 だが橘さんと呼ばれた紅い『仮面ライダー』はそれに答えることなくバイクを走らせてこの場を去ってしまった。 結局私は、何一つ理解出来ないまま。なのに状況だけが次々と進んでいた。 ・・・ カズマが受けた決闘状。相手はかつての師、戦うのは異国の地、奮うのは人とは異なる体。 人の皮を被る怪物と試験管から生まれた異形がぶつかり合った時、伯爵のストーリーは進む。 次回『決闘』 Revive Brave Heart 目次へ 次へ
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Burning Dark(後編) ◆9L.gxDzakI ぎん、と。 鳴り響く剣戟の音はさすがに重い。 驚嘆に値する相手だと、改めてアンジール・ヒューレーは思考する。 バスターソードと互角に打ち合える重量を、軽々と振り回すその筋力。 荒々しくも素早い攻撃は、さながら棒切れでも振り回しているかのようだ。 自分も今の腕力を手に入れるだけに、どれだけの鍛練を重ねたことか。 おまけにこれまでに見たこともない、異常なまでの再生能力も備えている。 断言しよう。こいつは強い。 自分達ソルジャーのクラス1stと、ほぼ同等のポテンシャルを有している。 それでも、倒せない相手ではないはずだ。故に剣を振るい続ける。 いかに優れた再生能力を持とうと、完全な不死などということはありえない。 仮にそんなものが呼ばれていたとすれば、その時点で殺し合いのゲームバランスは崩壊する。 もしも奴が本当に不死であるならば、デスゲームの結果は論ずるまでもない。 どう考えても、耐久力の差でアンデルセンが優勝する。 それ以外の可能性はありえない。それはプレシアの望むところではあるまい。 つまり、アンデルセンは無敵ではない。 であれば、倒せる。 ばさ、と。 背後の片翼を羽ばたかせた。 戦闘において、飛行能力とは重要なアドバンテージとなる。 相手が飛べない相手ならば、跳躍の限界以上の高度まで飛べば、それだけで攻撃をシャットアウトできる。 そうでなくとも、相手以上に多様な角度から、攻撃を仕掛けることも可能だ。 敵の頭上を一飛び。一瞬にして、背後を取る。 舌打ちと共に振り返るアンデルセン。 さすがに速い。だが、隙は一瞬でもできれば十分。 「はぁっ!」 気合と共に、一閃。 振り向くその刹那に、一撃。 バスターソードの太刀筋が、アンデルセンの胸部に引くのは真紅のライン。 肉が断たれた。鮮血が弾け飛んだ。 この剣はソルジャーに入隊した記念に、郷の両親が譲ってくれた大切な家宝だ。 使うと擦り減る。勿体ない。 故に本当の危機に迫られた時以外は、敵に刃を立てることなく、全て峰打ちで潜り抜けてきた。 だが、今回は相手が相手だ。再生能力を有した敵は、斬りつけなければ倒せない。 「この程度か! 俺の能力(リジェネレイト)を見ていながら、この程度の傷をつけて満足する気か!?」 「ブリザガ!」 そして今回は、これだけではない。 ただ斬撃を繰り返しただけでも、そうそう勝てる相手ではない。 故に、戦い方を変える。 突き出した左手。足元に浮かぶのはISのテンプレート。 マテリアルパワー、発動。使用するのは氷結の力。 迸る冷気が弾丸をなし、アンデルセンの傷口へと殺到。 命中する。凍結する。斬り開かれ、修復のために蠢く筋肉が、停止。 自慢の再生は中断される。 「ぬおっ……」 「いかに再生能力を持っているといえど、凍らせて復元を止めれば……」 「嘗めるなよ剣闘士(ソードマスター)! この程度の拘束で、俺をどうこうできると思ったか!」 ぴしっ、と。 ガラスのごとき氷晶に入る、亀裂。 そこはイスカリオテの最強戦力、アレクサンド・アンデルセン。 込められた気合が。発揮される気迫が。 氷の枷へと網のごとく、鋭いひびを広がらせ、遂には粉々に砕かせる。 当然の帰結だ。 そもそも最初の遭遇で、アンデルセンは同じブリザガの凍結を破ってみせた。 であれば、部分的な冷凍など、はねのけられないわけがない。 だが。 「――氷を砕くために、その足を止める!」 それが狙いだ。 突撃。すれ違いざまに、また一閃。 氷の砕けたその矢先、今度は脇腹を襲う痛烈な斬撃。 当然、回避などできない。もろに食らった一撃が、深々とアンデルセンの懐を抉った。 治り始めたところを、また即座に氷結。 「俺がその隙を許すと思ったか」 再度標的へと向き直り、アンジールが告げる。 これが彼の狙いだ。 いかに氷を砕けると言えど、そのためには一瞬の間隔を置く必要がある。 これが並の人間同士の戦いならば、何ということもない刹那の隙だ。 だが、ここにいるのは常人ではない。 アンデルセンは熟練の達人であり、アンジールもまた同じく達人。 互いに圧倒的な実力を誇る、彼らの戦いであればこそ、その一瞬こそが命取り。 回復の隙など与えない。傷口を残らず凍結させながら、極限まで追いつめて始末する。 これがアンジール・ヒューレーなりの、再生能力との戦い方。 無論、だからといって楽に勝てるわけではない。 普段に比べて、ISの燃費が悪くなっている。エネルギーの消耗が平時よりも早い。 自身のスタミナが尽きるのが早いか、アンデルセンが倒れるのが早いか。これは極限の我慢比べ。 ばさ、と羽ばたく。 怒濤の三撃目を叩き込まんと。 「チィッ!」 されど、回避。 まさしく紙一重。 その身を強引によじったアンデルセンが、肉薄するバスターソードをかわす。 お返しと言わんばかりに迫る、グラーフアイゼンの反撃。 鉄槌をかわす。剣で受け止め素早くいなす。今度は袈裟掛けに斬りかかる。 これも回避。 振り下ろしたところを、鉄の伯爵の一撃。 大剣の防御。勢いを殺しきれず、滑るように後退。 (防御を捨ててきたか!) さすがにそう簡単にはいかないようだ。 この男、狂人であっても馬鹿ではない。崩し方の割れた再生能力に頼らず、回避行動に専念し始めている。 素早い変わり身だ。防御一辺倒と思っていた男が、ここにきて素早いフットワークを発揮した。 「Amen!」 そうこう考えているうちに、次なる一撃が叩き込まれる。 これまた剣で受け止め、弾き返し、ステップで右側へと回り反撃。 ぎん、と。 弾かれたばかりのグラーフアイゼンが、素早くバスターソードを受け止めた。 やはり手ごわい。 再生能力を抜きにしても、こいつの実力は相当に高い。 少しでも気を抜こうものなら、逆に向こうがその隙を突いてくる。 鉄槌の重圧を振り払い、後退。一旦両者の間に距離を取った。 間違いない。 これまでの戦いと現在の戦いが、アンジールに確信を抱かせる。 このアンデルセンという男、死力を尽くしてぶつからなければ、到底倒せる相手ではない。 そしてこの勝負、負けるわけにはいかないのだ。 ディエチを喪い、今度はチンクの命までもが散ろうとしている。 そんなことは許せない。今度こそ、自分のこの剣で守ってみせる。 びゅん、と。 純白の翼が疾風と化す。 眼前で待ち構えるアンデルセンへと、一直線に殺到する。 振り上がる刃。同時に構えられる相手の鉄槌。 そこからの衝突は、まさに壮絶の一言に尽きた。 「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ―――ッ!!」 「カアアアアアァァァァァァァァ―――ッ!!」 一度斬りかかれば反撃も一度。 二度打ちかかってくれば反撃も二度。 十度の攻撃は十度の反撃。 百度の猛攻は百度の反撃。 目にもとまらぬ素早さで、繰り出されるバスターソードとグラーフアイゼン。 さながら横殴りの大豪雨。否、これはもはや押し寄せる波濤。 激流と激流同士がぶつかり合い、やかましい金属音と共にせめぎ合う。 アンジールの一撃が敵を掠めれば、アンデルセンの一撃が我が身を掠める。 一歩も押せず、一歩も引かず。 両者の攻め手は完全に拮抗し、怒号と共に激突し合う。 パワー・スピード・テクニック。そのいずれかでも相手より劣れば、即座にほころびとなるだろう。 しかし、均衡は崩れなかった。 どちらもが死力を尽くし合った結果、そこに優劣は存在しなくなった。 「いいぞアンジールゥ! それでこそ倒し甲斐がある! 殺し甲斐がある! 絶滅させる甲斐があるゥゥゥッ!!」 「知ったことか! お前が俺の家族を奪おうというのなら……倒すまでだッ!!」 ただありのままに、互いの一撃一撃を。 憎むべき敵の懐目がけ、一心不乱に叩き込むのみ。 そして―― 《グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――ッ!!!》 剣戟の轟音すらかき消す絶叫は、この時響き渡っていた。 ◆ 今のは何だ。 ただ戦闘を傍観していたチンクは、割って入った音に周囲を見回す。 それはアンジール達も同じようだ。 互いにつばぜり合いの態勢で静止したまま、意識のみで音源を探っていた。 アンデルセンと戦っていたと思えば、そこへあのアンジールという、訳の分からない男の乱入。 大剣を構えるあの男は、自分に味方してくれた。 であればこいつは一体何だ。またしても現れた第二の乱入者は、味方なのか敵なのか。 轟、と。 地鳴りのような音が響く。 いいや、地面は揺れていない。であればこれはまた別の音だ。 揺れているのは大地ではない。これは大気を揺らす音。 陽炎を起こす炎の音だ。 そしてその音源は――――――北から来る! 「いかん……チンク、逃げろッ!」 アンジールの声。同時に白き翼が羽ばたく。 一瞬遅れ、大通りに沿って現れたのは。 「なっ……!」 鬼だ。 まさしく炎の鬼の姿。 屈強な筋肉を巨体に身につけ、灼熱の業火を撒き散らす鬼神が、猛烈な加速と共に突っ込んでくる。 凄まじい熱量に歪む空気を、その突撃で吹き飛ばしながら。 溢れんばかりの真紅の炎で、その道筋を焼き尽くしながら。 理性で判断している余裕などない。 一瞬前に目撃した鬼は、今や倍のサイズに見えるほどに接近している。 かわせるか。いいや、かわすしかない。 あんなものを食らってはひとたまりもない。 かっ、と。 地面を叩き、バックステップ。 思い出したように、ハードシェルの準備を整える。 だが。 その時には既に遅かった。 一瞬の反応が遅れた結果、防壁が完全に展開するよりも早く。 「う……うわああぁぁぁぁぁーッ!!」 炎がその身に襲いかかった。 ◆ 単刀直入に言おう。 この時、チンクら3人へと襲いかかったのは、地獄の業火を操る灼熱の召喚獣――イフリートである。 その力は、数多いる召喚獣の中でも比較的低い。 クラス1stであるアンジールや、それと同等の実力を誇るアンデルセンなら、恐らく倒せていただろう。 事実として、最強のソルジャー・セフィロスは、かつてこれを一撃で撃破している。 だが、それは敵の攻撃をかいくぐり、こちらの攻撃のみを命中させた場合の話だ。 召喚獣の破壊力は絶大。 骨すら溶かす紅蓮の炎は、食らえば人間などひとたまりもない。 まして、制限によって弱体化されている今の彼らに、生き延びられる保障はない。 そしてその暴力的な力を前に、3人はいかなるアクションを取ったか。 まず、イフリートが使われている世界から来た、アンジール・ヒューレー。 雄たけびでその正体を察知した彼は、誰よりもいち早く離脱することができた。 続いて、イフリートを目撃した瞬間に、ようやく回避行動を起こしたチンク。 たとえ未知の存在であるといえど、似たような魔法生命体の存在は、一応頭に入っている。 間に合わずかの召喚獣の纏う炎を受けたものの、体当たりの直撃だけは避けられた。 真っ向から突撃を食らうことがなかっただけでも、まだましな方であったと言えるだろう。 そして、アレクサンド・アンデルセン。 いかに化物退治を生業とする彼でも、このような巨大生物は過去に見たことがなかった。 彼が屠ってきたのはヴァンパイアやグール。全て人間大の範疇に収まるもの。 故に、こんな冗談のような存在は、これまで目の当たりにしたことがない。 そのためその巨体を前に、一瞬とはいえ魅入られたアンデルセンは―― ――唯一、その直撃をまともに食らってしまった。 ◆ 凄まじい圧力を身体に感じている。 凄まじい熱量が身体を舐めている。 抗う術は既にない。真正面から体当たりを食らった瞬間、グラーフアイゼンは右手から弾け飛んだ。 くわと見開かれたアンデルセンの視線と、イフリートの視線が重なっている。 そうだ。これこそが真の化物だ。 人間の理解を容易に跳ね除ける、このような存在だからこそ、化物(フリーク)の名に相応しい。 掛け値なしの化物共に比べれば、自分など所詮健全な一般人だ。 だが同時に、自分はその化物を駆るべき人間でもある。 殺し屋。銃剣(バヨネット)。首斬判事。天使の塵(エンゼルダスト)。 語り継がれる数多の異名は、この身に培った力の証。 偉大なる神の御心の下、その威光に刃向かう百鬼夜行を、血肉の欠片も残らずぶった斬ること。 それこそが己の仕事であり、己の存在意義でもある。 それがどうした。 そのアレクサンド・アンデルセンが、こんな形で倒れるのか。 絶滅させるべき存在である化物に、逆にくびり殺されて終わるのか。 既に身体は動かない。 アンジールによって刻まれた傷痕から、炎が体内までも侵略している。 再生が追いつくはずがない。身体を動かす余裕などない。 情けない。 何だこの体たらくは。 法王の下へと帰還することすら叶わず、こんなところで朽ち果てるのか。 このまま地獄の炎に焼かれ、消し炭となって路傍に打ち捨てられるのか。 アンジールやチンクを放置したまま。 あの男との決着もつけられぬまま。 ――アーカードを殺せぬまま。 「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォォ――――――――……………ッッッ!!!!!」 【アレクサンド・アンデルセン@NANOSING 死亡】 【残り人数:42人】 ※G-6の南北に走る大通りと、その南側の延長線上の建物が、イフリートの「地獄の業火」を受けました。 道路は焼け焦げ、建物は崩壊しています。 ※H-6の川に、アンデルセンの焼死体と、焼け焦げたデイパックが浮いています。 アレクサンド・アンデルセンは死んだ。 道路に転がったグラーフアイゼンと、最期の絶叫がその事実を物語っている。 それは受け止めよう。もっとも、こんな形で決着がつくとは思わなかったが。 だが、今アンジールの青き視線は、全く別のものを捉えていた。 もはや彼の全神経は、それとは全く異なるものに向けられていた。 「……チンク……」 肩を震わせ、呟く。 視線の先に落ちていたのは、黒い眼帯とうさぎの耳。 何故かバニーガールの服装をしていた、あの小さな妹の身に付けていたものだ。 姉妹の中で最も幼い姿をしながら、12人中5番目に生まれていた娘。 小さな身体とは裏腹に、常に下の妹達の面倒を見ていたお姉さん。 いつしかそこに加わっていたアンジールのことも、仲間の一員として受け止めてくれていた。 ウーノがケーキを買ってきたときにも、自分の代わりに剣の手入れを引き受けるとまで言ってくれた。 「俺はまた……守れなかったのか……」 彼女の眼帯のその先には――同じく黒に染まった、短い右腕が落ちていた。 肘から下の部分であるそれは、完全に炭化してしまっている。 間に合わなかった。 イフリートの突撃を回避できず、その身を炎に焼かれてしまった。 その右腕だけを残して。それ以外の部分は、影も形も残らぬほどに。 地獄の責め苦の苦痛の中で、死体すら残さず燃え尽きてしまったのだ。 自分のせいだ。 自分の力不足が彼女を殺した。 あの時回避をチンクに任せなければ。 距離が離れていようとも、届いて助け出せるだけの速さがあれば。 2人目の家族を、死なせずに済んだのだ。 「……くそ……ッ!」 後悔が。絶望が。 男の顔を、歪ませる。 【1日目 午前】 【現在地 G-6 大通り】 【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 【状態】健康、疲労(中)、全身にダメージ(小)、セフィロスへの殺意、深い悲しみ 【装備】バスターソード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、アイボリー(6/10)@Devil never strikers 【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【思考】 基本:クアットロを守る。 1.チンク…… 2.クアットロ以外の全てを殺す。特にセフィロスは最優先。 3.ヴァッシュ、アンデルセンには必ず借りを返す。 4.いざという時は協力するしかないのか……? 【備考】 ※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。 ※制限に気が付きました。 ※ヴァッシュ達に騙されたと思っています。 ※チンクが死んだと思っています。 ※G-6の大通りには、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 チンクの眼帯、バニースーツのうさぎ耳、炭化したチンクの右腕が落ちています。 全てを見ていた者がいた。 戦場から離れた道路の上で、一部始終を目撃していた者がいた。 黒と紫に彩られた、ゴシップロリータのドレスを纏うのは、未だ10歳にも満たぬ少女。 薄紫の髪を風に揺らし、真紅の瞳は手元を見つめる。 「……お疲れ様」 ぽつり、と呟いた。 視線の先にある、宝石のような球体へと。 マテリアだ。 魔晄エネルギーが結晶化し、固体と化した球状の物体。 人間はこのマテリアを介することで、その種類に応じた古代の魔法を、自在に発動することができるのである。 そして彼女の手の中にあるのは、その中でも召喚マテリアと呼ばれるもの。 対応する召喚獣の名は、イフリート。 そう。 彼女こそが、あの灼熱の魔神を呼び出した張本人。 スカリエッティに協力する召喚魔導師――ルーテシア・アルピーノである。 全てはほんの偶然だった。 元々は当初の予定通り、スカリエッティのアジトへと向かおうとしていた。 しかし、F-7エリアまで足を運んだ時、とある発想が頭に浮かんだ。 ――あの光と風に従ってみよう、と。 ユーノ・スクライアを刺した直前、襲いかかってきた衝撃波を思い出したのだ。 あれが砲撃魔法か何かの余波ならば、当時の状況から推察するに、G-5かG-6に向かって飛んで行ったことになる。 少なくとも、アジトのある北東ではなさそうだ。通り道であったはずの、G-7にその気配がなかった。 あれだけの破壊力の矛先だ。きっとその先には何かがある。 幸いにも、ここからもそう遠くない。 生体ポットの様子を見に行く前に、少し覗きに行っても罰は当たるまい。 そう思い、ひとまずはそちらへ向かうため、大通り沿いにF-6へと踏み込んだ。 そして南下しようとした時、その先に彼らを見つけたのだ。 切り結ぶ剣士と神父、そしてその手前に立つチンクの姿を。 ちょうどいい。 3人も人が集まっているのだ。ここらでイフリートの力を試してみよう。 起動テストも兼ねた実験だったが、どうやら上手くいったようだ。 見事召喚獣は顕現し、その絶大な破壊力を見せつけた。 体力の消耗がついてくるのが玉に瑕だったが、十分な威力と言っていいだろう。 しかし、1つだけ不満がある。 あれだけの猛威を振るっておきながら。 「殺せたのは1人だけ……か……」 【1日目 午前】 【現在地 F-6 大通り】 【ルーテシア・アルピーノ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】健康、魔力消費(中)、疲労(小)、キャロへの嫉妬、1人しか殺せなかったのが残念 【装備】マッハキャリバー(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ウィルナイフ@フェレットゾンダー出現! 【道具】支給品一式、召喚マテリア(イフリート)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、 エボニー(10/10)@Devil never strikers、エボニー&アイズリー用の予備マガジン 【思考】 基本:最後の一人になって元の世界へ帰る(プレシアに母を復活させてもらう)。 1.どんな手を使っても最後の一人になる(自分では殺せない相手なら手は出さずに他の人に任せる)。 2.北へ向かい、スカリエッティのアジトへ一度行って生体ポッドの様子を確かめる。 3.一応キース・シルバーと『ベガルタ』『ガ・ボウ』を探してみる(半分どうでもいい)。 4.一応18時に地上本部へ行ってみる? 5.もしもレリック(刻印ナンバーⅩⅠ)を見つけたら確保する。 【備考】 ※ここにいる参加者は全員自分とは違う世界から来ていると思っています。 ※プレシアの死者蘇生の力は本物だと確信しています。 ※ユーノが人間であると知りました。 ふらり、ふらり、と。 おぼつかない足取りが、前へと進む。 ぼろぼろに焼け焦げたシェルコートと、ちりちりとくすんだ銀髪を、力なく風に揺らしながら。 火傷を負った全身を、引きずるように歩きながら、少女が東へと進んでいく。 チンクは生きていた。 ハードシェルの展開こそ間に合わなかったものの、何とか一命を取り留めたのだ。 イフリートの炎に煽られた彼女は、G-7の西端へと吹っ飛ばされていた。 そしてその後は、危険な戦場を離れるために、こうして東へと逃れていたのである。 考えるべき事項はいくつかあった。 アンジールはともかくとして、あのアンデルセンはどうなったのか。 見知らぬISを発動していたアンジールは、一体何者だったのか。 何故自分の名前を知っていて、ああも馴れ馴れしく接してきたのか。 だが、そんなことを考える余裕など、チンクには一切残されていない。 それ以上に大きな念が、彼女の脳内を占めていたから。 ぼとり、と。 コートの裾からこぼれ落ちる、漆黒の塊。 それを気に留めることもなく、目の前の巨大な建物へともたれかかり、腰を下ろす。 「……参ったな、ディエチ……」 か細い声が、呟く。 天を仰ぎながら、自嘲気味な笑みを浮かべる。 地獄の業火に飲み込まれたあの時、チンクはとっさに両腕を突き出し、防御態勢を取っていた。 爆発物の投擲を基本スタイルとする彼女にとって、何よりも失いがたい両腕を、である。 その結果かどうかは分からないが、どうにかこうして生き延びることはできた。 全身に負った火傷はひどく痛むが、それでも死には至っていない。 だが、その代償もある。 それこそがあの襲撃の現場に落ちていたものであり、そして彼女がたった今落としたもの。 アンジールが見つけたそれと同じように、ぼろぼろに焼け焦げて抜け落ちたのは――左腕。 「もう、姉は……戦えない身体なんだとさ……」 す、と。 金色の瞳から、一筋の雫が線を引いた。 【1日目 午前】 【G-7 デュエルアカデミア外部】 【チンク@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】健康、疲労(中)、全身に火傷、両腕欠損、絶望 【装備】バニースーツ@魔法少女リリカルなのはStrikers-砂塵の鎖-、シェルコート@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【道具】支給品一式×2、料理セット@オリジナル、翠屋のシュークリーム@魔法少女リリカルなのはA s、 被験者服@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪×2(フェイト(StS)、ナイブズ)、 大剣・大百足(柄だけ)@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる、ルルーシュの右腕 【思考】 基本:姉妹と一緒に元の世界に帰る。 1.ディエチ……姉は…… 2.G-6~8を中心に、クアットロを探す。しばらくして見つからなかったら、病院に戻る。 3.クアットロと合流した後に、レリックを持っている人間を追う。 4.姉妹に危険が及ぶ存在の排除、及び聖王の器と“聖王のゆりかご”の確保。 5.ディエチと共闘した者(ルルーシュ)との接触、信頼に足る人物なら共闘、そうでないならば殺害する。 6.クアットロと合流し、制限の確認、出来れば首輪の解除。 7.十代に多少の興味。 8.他に利用出来そうな手駒の確保、最悪の場合管理局と組むことも……。 9.Fの遺産とタイプ・ゼロの捕獲。 10.天上院を手駒とする。 【備考】 ※制限に気付きました。 ※高町なのは(A’s)がクローンであり、この会場にフェイトと八神はやてのクローンがいると認識しました。 ※ベルデに変身した万丈目(バクラ)を危険と認識しました。 ※大剣・大百足は柄の部分で折れ、刃の部分は病院跡地に放置されています。 ※なのは(A’s)と優衣(名前は知らない)とディエチを殺した人物と右腕の持ち主(ルルーシュ)を斬った人物は 皆同一人物の可能性が高いと考えています。 ※ディエチと組んだ人物は知略に富んでいて、今現在右腕を失っている可能性が高いと考えています。 ※フェイト(StS)の名簿の裏に知り合いと出会った人物が以下の3つにグループ分けされて書かれています。 協力者……なのは、シグナム、はやて、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、クロノ、ユーノ、矢車 保護対象……エリオ、キャロ、つかさ、かがみ、こなた 要注意人物……十代 ※フェイト(StS)の知り合いについて若干の違和感を覚えています。また、クローンか本物かも判断出来ていません。 ※アンデルセンが死んだことに気付いていません。 ※アンジールと自分の関係は知りませんが、ISを使ったことから、誰かが作った戦闘機人だと思っています。 ※シェルコートは甚大なダメージを受けており、ハードシェルを展開することができなくなっています。 ※G-7のチンクの目の前には、炭化したチンクの左腕が落ちています。 Back Burning Dark(前編) 時系列順で読む Next Paradise Lost(前編) 投下順で読む Next 銀色の夜天(前編) チンク Next 過去 から の 刺客(前編) アレクサンド・アンデルセン GAME OVER アンジール・ヒューレー Next Round ZERO ~ JOKER DISTRESSED(前編) ルーテシア・アルピーノ Next 過去 から の 刺客(前編)
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第2話「音速は伊達じゃない!!」 ~あらすじ~ ソニックは何と自分が起こしたカオスコントロールを制御できずに、 首都クラナガンに飛んでいってしまった! そこから新たな生活が始まろうとしていたのだが… 「あなたの名前は?」 「オレ?オレの名前はソニック。ソニック・ザ・ヘッジホッグさ!!」 明朗快活にそう答える青いハリネズミ。 フェイトは、本当にさっきのエネルギー反応の根源がこのハリネズミか気になっていた。 「あの…ソニック…さん?一体どうしてここに?」 「ん?なんか、カオスコントロールを制御しきれなくって…この世界に飛んじまったってわけだ。」 「カオスコントロール?」 フェイトにはその単語の意味がさほど理解できなかったが、時空間魔法の一種だとは容易に推測できた。 (となると、次元漂流『者』か…いや、次元漂流鼠、というべきかな?) この世界では、次元漂流者などはフェイト達の属する機動六課が責任を持って元の世界に返す、という義務があった。 「あの、ソニックさん。とりあえず、機動六課に―――――――――――――――っていない!?」 ソニックは、フェイトが何か考え事をしている内にどこかへ走り去ってしまった。 (まだそう時間はたっていないからそう遠くへ入ってないはず…) そう推測し、周囲に青いハリネズミがどこに行ったか、聞き込みをするフェイト。 だが、【そう遠くへ行っていない】という考え方では、ソニックを連れ帰ることができないということを、フェイトは知らなかった。 ソニックは今、どこかの森の中を走っていた。 ここがどこかなんてどうでもいい。ただ、退屈したくない。 そんなさっぱりとした、しかしどこか抽象的な概念のもとで生きてきた。 「………寝るか。」 周りを見渡して、一番涼しそうな木の下で寝始める。 穏やかな風が気持ちよかった。 目を閉じていると心地よい睡魔に襲われる。 だが、その睡魔はすぐにどこかへ吹き飛んでしまった。 「見つけた。」 その声の主が誰かと思って見上げたら、そこには明らかに怒っているフェイトが立っていた。 「突然どこかに行ったりして!何を考えてるんですか!」 「だって、さっきの話は退屈だったんだぜ~?俺は、自由に生きたいんだ。」 陽気に話してくるソニック。 そんなソニックに少し苛立ちを覚えるフェイトであった。 「とにかく!一緒に来てもらいます。手続きとかいろいろやらなきゃいけないのに…」 その言葉を聞いてソニックが嫌そうな顔をする。 退屈なのはいやだ、といったそばから退屈そうなことが回ってくるのはごめんだ。 「……オーケイ、じゃあ、こうしよう。これからレースをしようじゃないか。オレが勝ったら、放っておいてくれ。 オレが負けたら、連れていくなり何なり好きにすりゃいい。これでどうだ?」 目を丸くして何を言っているのか分からなさそうにしているフェイト。 だが、その言葉の意味を理解すると、真剣な表情で頷いた。 (大丈夫。スピードだったら、私に分がある。) 勝ちを確信したフェイトだが、ソニックの本当の速さを知らない。 多少警戒して、念のためにバリアジャケットに着替えるのであった。 レース場は高速道路。ソニックが逃げるのでフェイトはそれを捕まえればいい、という鬼ごっこ形式のものだった。 「3…2…1…GO!!」 ソニックが高らかにスタートを宣言した。 フェイトがスタートダッシュしてソニックを捕まえようとした矢先だった。 「っ!?」 フェイトの手はむなしく宙を舞う。ソニックを逃してしまった。 そして気がつけば、ソニックと100メートルほど離れている。 なぜ、と疑問が浮かんだが、考えている暇はなかった。 フェイトはソニックを追い、全速力で飛んだ。 「くっ…」 正直、ここまで速いとは思っていなかったフェイト。 ソニックはこちらを振り返り、にやりと笑ってスピードを上げる。 (仕方ない。攻撃魔法を多少使うか…) そういってバルディッシュを一振りし、 「プラズマランサー!!」 数本の光の矢がソニックを追う。 だがそれらすべて、ソニックに当たることはなかった。 「こんな攻撃じゃ、欠伸が出るぜ!!」 といいながら、全て避けきる。 ソニックはまだ余裕の表情だが、このレース場は大きな欠陥があった。 それは、『ここの高速道路はまだ工事中』ということだった。 ソニックの目の前に断崖絶壁が広がる。 (勝った!) そう確信したフェイトは、この世のものとは思えない動きを目にする。 「!?」 ソニックはその崖から飛び降りた。ここまでは良かった。 しかしそのおよそ0.5秒後、ソニックはハイスピードで上昇し、断崖絶壁の向こう側にたどり着こうとしていた。 「どうして………?」 物理的法則を捻じ曲げたとしか思えない動き。 しかし、フェイトが驚いていることに驚いた。 (どうして………って、ライトダッシュしただけじゃないか。) ソニックはただ単に、この高速道路の端から端まで続いていたリングにライトダッシュしただけなのだ。 (もしかして…リングが見えないのか?) そんな余計なことを思っていた時だった。 「ふぶっ!」 ソニックの顔面に何かがぶつかる。 それが何か、確認してみると、ピンクの網。 しかも、その網はどうやらソニックをがっちりと捕獲していた。 「フェイトちゃん、おつかれさま。」 その声にフェイトが振り向く。 そこには、茶髪のツインテールで綺麗な人が立っていた。 「なのは!」 「もう、帰りが遅いから心配したんだよ~。」 「ご、ごめん……」 「でも、無事だったから、いいよ。」 などと、ソニックそっちのけで話が進んでいる。 「と、こっち忘れてたね。」 「なのは、それ、どうするの?」 「とりあえず、はやてちゃんに相談しなきゃ。」 そういって、なのは―――と呼ばれたばれた女性―――はソニックを捕まえた網ごと空へ飛ぶ。 それに合わせ、フェイトも飛ぶ。 「NO~~~~~~~~!!!!!」 こうして、ソニック対フェイトのスピード勝負は実質ソニックの勝ちだが、結果的にフェイトの勝ちで幕を閉じた。 「なんや、ハリネズミっちゅーのは聞いとったけど、ネズミにしてはずいぶんでかいなぁ。」 かれこれソニックが捕獲(?)されて20分。ソニックははやてのもとに連れてこられていた。 もちろん、なのはお手製の檻の中で。 「しかし、本当に奇妙な構図やな~。」 ピンクの檻、その中にいる青いハリネズミ。しかもしゃべる。 はやて自身、アルフやユーノとは知り合いなので見慣れていたといえば見慣れていたが、やはり、シュールだった。 「それで、本当に君は一人でその『かおすこんとろーる』を使ってここに来たの?」 「何度も言ってるだろ~。カオスコントロールがうまく発動しなくって、無理やり発動したら、ここに飛んできたんだ。」 半ばふてくされて言うソニック。 こんな質問をゆうに、20回ほど聞かれれば、ふてくされるのも当然だろう。 「そうすると…彼はロストロギア並み、いや、それ以上の危険性を持っているっちゅーことか…」 「となれば厳重な保護観察が必要ね…それも、そのカオスコントロールを無作為でも発動させられれば、 ソニックを殺してでもそれを阻止しなければいけない…」 自分を殺す、という言葉を聞いてソニックはようやく真剣に聞く態度になった。 「それなら心配ないぜ。オレのスーパー化は疲れるから、そんなに使えないしな。それに、ここにはカオスエメラルドもない。 オレは今この場じゃ、ただの歯牙無いハリネズミだぜ。」 その言葉を聞き、なのはが当然の疑問を投げかける。 「カオスエメラルドって何?」 「言ってみれば『奇跡の石』だな。7つ集めれば強大な力を手に入れることができる。それ一つで ……そうだな~。少なくともここら一体の電力くらいは補えるんじゃないか?」 何気なく口にした言葉がその場の空気を凍らせる。 「そ、その石には数字が彫ってなかった!?ローマ数字が!!」 「?い、いや…彫ってないぜ。」 突然フェイトが聞いてきたので何事かと思いきや、そんなことか、とソニックは少し脱力する。 「よし、わかった。ソニックはしばらくここで預かることにする。その間はなのはちゃん、フェイトちゃん、 ソニックのこと頼むで。ソニック、あんたもさっき言った通り、カオスコントロールを発動させれば、 あたしたちはアンタを殺してでも止めるからな。」 はいはい、といった様子で肩をすくめるソニック。 ふと、自分を縛っていた網がどこかえと消えた。 「この管理局から出ない限りは、一応自由ってことで。」 なのはにそう言われたが、制限つきの自由では物足りない、といった表情だった。 「OK。わかったよ。」 その条件に妥協したソニックは、おもむろに立ち上がり外に出る。 「なのはちゃん、フェイトちゃん、頼んだで。」 その言葉にうなずいた二人は、ソニックの後をついていく。 そんなこんなで、青いハリネズミの新しい生活が幕を開けるのだった。
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仄暗い玉座の間を薄明かりだけが照らす。 暗闇から七人の男女が姿を現す。 玉座には中華風の衣装で煌びやかに着飾った女性が立つ。威厳の割りに、その顔は若く美しい。 「集まったか、八卦集よ」 彼女の声に玉座の下、左右に控える七人が恭しく傅く。 「ついに我ら鉄甲龍の復活の時が来た。長く国際電脳を隠れ蓑としてきたが、もはやその必要はない!今こそ世界を冥府へと変える時ぞ!」 高らかに叫ぶ声に、全員が深深と頭を下げる。 「だが、その前にやらねばならぬことがある……。わかるな?」 七人の内の一人、仮面の男が一礼し答える。 「はっ。裏切り者『木原マサキ』の抹殺、そして彼奴に奪われし『天のゼオライマー』の奪還にございます」 「左様。だが既に木原マサキは死んだとのこと。なれば残るは、天のゼオライマーの時空管理局からの奪還。誰ぞ我こそはという八卦は居らぬか!?」 七人全員がそれに応えた。彼女はしばし悩んだ後に 「耐爬、風のランスターに命ずる!必ずや天のゼオライマーの奪還、もしくは破壊を遂行せよ!」 両目の下に八卦の証である紋を入れた青年を指した。 「御意っ!必ずや御期待に応えて見せましょうぞ!」 彼は勇ましく答える。それは彼女――幽羅帝への忠誠。だが、それだけではない。 一瞬、彼女が耐爬に送った、切なげな視線に気付く者は何人いただろうか。 また、自らが去った後の、幾人かの耐爬への嘲笑を彼女は気付かなかっただろうか。 後にこの事件は、一般には『鉄甲龍事件』と呼ばれることになる。だが、真実を知る一部の人々はこう呼んだ。『冥王事件』――と。 魔法少女リリカルなのは―MEIOU 第一話「冥王、黄昏に降臨す」 「鉄甲龍……ですか?」 居酒屋風、否、居酒屋のカウンターに男女二人が腰掛けている。 一人は八神はやて。時空管理局 本局古代遺物管理部 機動六課部隊長である。仰々しい肩書きだが、19歳という年齢からはそうとわかるものは少ないだろう。 「ああ、別名ハウドラゴン。現在は動きを見せてないがな。多分水面下で活動してるんだろう」 もう一人はゲンヤ・ナカジマ。陸上警備隊第108部隊の隊長だ。階級ははやてが上ではあるが、それを感じさせない砕けた口調だ。研修中に彼女の面倒を見た関係で、今でも相談に乗ることがある。 「せやけど、次元世界を股にかけて活動するなんてできるんですか?」 「まあ、普通は無理だろうな。だが、奴らはおそらく独自の次元空間航行船、いや要塞を持っている。本局レベルのものをな」 「そんな……」 それほどの組織が何故、今活動していないのか。疑問は尽きない。 「連中のテクノロジーは管理局と同等かそれ以上。位置を悟らせない何らかの仕掛けがあるんだろう。組織も局と違って一枚岩だ」 「何でナカジマ三佐はそんなに詳しいんですか?」 はやての疑問は当然のことだろう。一介の部隊長が知っていることではない。 はやても今まで聞いたことすらなかった。 「昔……ちょっとな」 「はぁ……」 僅かにゲンヤの顔が曇った。が、すぐに笑って誤魔化した。 「ともかくだ、八神。鉄甲龍という名を覚えておけ。だが、できればこのまま忘れることができればいいんだがな……」 「わかりました。ありがとうございました、ナカジマ三佐」 「いや、休みだってのにこっちから呼んで悪かったな」 「いえ、今日は話せてよかったです。失礼します」 鉄甲龍――店を出た後もその言葉が頭から離れなかった。 その日、ティアナ・ランスターとスバル・ナカジマはいつもの休暇を満喫すべく、街に繰り出していた。 ウィンドウショッピングに買い食い等々をたっぷり楽しみ、さあ帰ろうかという頃。既に太陽は落ちかけ、街は朱に染まろうとしている。 二人乗りのバイクを走らせていると、懐かしい姿を見つけた。向こうも驚いてバイクを急停止させる。 「美久!?」 彼女は確かに氷室美久だった。二人の魔法学校の同期生。流れるような美しい栗毛、大きな瞳はまるで卒業当時から変わっていない。顔立ちも髪の長さもそのまま、背だけが少し伸びただろうか。 「スバル……ティアナ?」 彼女もスバル達を見て驚いているようだ。 「うん!久しぶりじゃん!」 スバルはつい懐かしくて手を握る。すると彼女も昔のように微笑み返してくれた。 「ほんと、久しぶりね。二人とも元気そう」 「まぁ、元気じゃなきゃ勤まらないしね」 「そうそう。身体が資本だから」 そんな他愛ない会話を交わす。それは15の少女らしい姦しいやり取りだった。 「そういえばさ、美久って確か本局勤務じゃなかったっけ?」 「何かミッドに用でもあるの?」 「あ……うん。そうなんだけどね……」 その話題になると急に歯切れが悪くなってしまった。困った顔で俯いてしまう。 「(ちょっとスバル。あんまり聞かないほうがいいかもしれないわよ。辞めちゃったとかかもしれないし)」 ティアナがスバルに念話を飛ばす。 「(あ、うん。そうだね、ごめん)」 スバルはこういったことに少々疎いので、ティアナのフォローはありがたい。 「いいよ。また今度、都合が合えば同窓会でもしよ?」 スバル達が気を使ったのがわかったのか、美久はほっとした顔で微笑む。 「うん、そうね。ありがとう」 そう言って彼女達は別れる。後はこのまま隊舎に帰り、残り少ない休日を楽しみ、明日に備えて眠る――はずだった。 「ティア!あれっ!」 二人の背後に輝いていたはずの太陽が突如、覆い隠される。 スバルの指の指す先には巨大な翼を開いた白いロボット、50mはあるだろうか。 「なに……あれ?」 バイクを横転しそうな勢いで止めたティアナはそう呟いた。いや、それだけしか話せなかった。 「どこだぁ!!ゼオライマー!!」 ロボットは訳のわからない言葉を叫びながら降下した。 足元の建物を踏み潰しながら、肩からは竜巻を放出しながら物や人を巻き上げていく。 街はあっと言う間に悲鳴に包まれ、人々は逃げ出した――しかし、どこへ逃げればいいのか?それもわからず、ただ、あのロボットから少しでも遠くへ逃げようとしている。 「と、とりあえず報告しよう!」 「そ、そうね!指示を仰がないと!」 その当然の答えにたどり着くのさえ、時間を要した。報告をしようとした時、上から自分達を呼ぶ声に気付く。 「スバル、ティア!」 「なのはさん!」 スバルとティアの上司、高町なのは一等空尉である。彼女は既にデバイスを発動させ、バリアジャケットをその身に纏っていた。 「なのはさん!何なんですか、あれ!」 「落ち着いて、二人とも!」 すっかりパニックになりかけている二人をまず落ち着かせる。 「あのロボット、こっちの呼びかけには全然答えようとはしない。私とフェイトちゃんは戦いに出ようとしたんだけど、上から強力なストップがかかったみたいなの。だから今は避難誘導を急ごう。二人も手伝って!」 「は、はい」 それぞれのデバイスを構え、 「マッハキャリバー!」 「クロスミラージュ!」 「セットアップ!」 『Standby,Ready』 同時に二人はデバイスを起動、バリアジャケットを纏う――瓦礫の撤去や障害物の破壊、攻撃を受けた時のためだ。 「それじゃあ、よろしく!」 なのはは再び飛び去り、スバルとティアナは顔を見合わせ頷くと走り出した。 なのはは避難誘導を急ぐ。 だが、何故上からのストップがかかったのか。それだけは気になって仕方がなかった。 こうしている間にもロボットは建物を吹き飛ばし、踏みにじっているというのに。 だが、その答えはすぐにわかった―― 「っ!公園が!?」 近くの公園が割れ、大きなゲートが開く。中からせり上がってきたのは、同じく巨大なロボットだった。 暴れているロボットとデザイン的には近い。各所に突起があり、特に頭部の突起は一際目立つ。 最大の特徴は、両手の甲の丸い球。同じ物が頭部中央にもある。 「またロボット?」 現れたロボットはぎこちない動作で手足を動かした後、背部のバーニアから青い炎を噴出しながら空へと飛び上がる。 「現れたか!ゼオライマー!」 暴れていたロボットは、現れたロボットに反応し、同じく空へと飛び上がる。形状から見て飛行に適しているのだろう。 間接の駆動音を響かせ、翼のロボットが殴りかかる。金属がぶつかり合う轟音は、周囲の悲鳴さえも掻き消す。 殴られたロボットは大きく飛ばされ、車、建物――人を破壊しながら地面を滑っていく。 爆音は更なる悲鳴を呼び、炎は薄暗くなった空を照らす。 倒れたロボットは再度飛び上がるが、風に煽られバランスを崩す。そこに敵の攻撃を受け転倒。 それを何度か繰り返し、やがて完全にロボットは沈黙した。 「何と呆気ない……これが天の力か……?」 エンジンが止まったのか、両手と頭の球体の光も完全に消えてしまっている。 「なのはちゃん!たった今、上から命令が下された。避難完了まで、できるだけ時間稼いで!」 「了解!」 はやての通信にも疑問が残る――この事態に攻撃にストップをかけておいて、ロボットがやられると今更戦えと言ってくる、上の指揮には明らかに不自然な点があった。 だが、今はそうも言ってられない。すぐにその考えを振り払った。 「時空管理局です!直ちに攻撃を停止し――っ!」 最後まで言い終えないうちに突風が真横を通り抜ける。ロボットは完全になのはに向き直っていた。 「邪魔をするな!管理局の魔導士!」 「そっちがその気なら……!」 なのはもレイジングハートを構える。 あれだけの巨体だ。殴られただけでも完全に防ぎきることはできないだろう。だが、懐に入ることができれば――。 『Accel Shooter』 高速で接近しつつ光弾を発射する。無数の光弾は尾を引きつつ、全てが着弾した。 「駄目っ!威力が低すぎる!」 アクセルシューターではかすり傷程度しか負わせることができない。 なのはの弱みはそれだけではなかった。 自分とロボットの下には未だ多くの市民が残っている。 彼女はロボットを市街地から引き離そうとも試みたが誘いにも乗ろうとはしない。余程もう一体のロボットから離れたくないのか。 それとも市街地の上なら全力の攻撃もできないと考えているのか――。 (距離を取って、全力の砲撃で撃墜できたとしても、あの巨体が落下して爆発すれば被害はかなりのものになる……!) それがなのはの攻撃を鈍らせている。 「邪魔をするなら、貴様から死んでもらうぞ!デェッド!ロン!フゥーン!」 ロボットの肩から六つの巨大な竜巻が放出され、外から内へ、囲むようになのはを包みこんでいった。 「きゃあああああああ!!」 竜巻の中では上下左右の感覚すら失われる―― フィールドやバリアジャケットが削られていくのを感じる―― (このままじゃ……!) なのははできる限り最大のバリアを張る。 そのことでダメージは軽減され、竜巻の中で体勢を立て直すこともできた。 レイジングハートを構える。 「ディバイン……」 狙いは一点、竜巻の隙間から見えるロボット、その肩。 魔法陣が杖を囲む――意識を集中させ、掛け声と共に一気に解き放つ。 「バスター!!」 収束された桜色の魔力光はロボットの右肩の、風の噴射口に突き刺さり爆発した。 「ぐぅぅぅぅぅ!!」 突然の反撃に驚いたのか、ロボットは肩を抑えて仰け反る。 弱まった竜巻を突破したなのはは再びロボットと対峙した。双方とも中距離で睨み合う。 一触即発の空気が流れる。下はまだ避難する市民や車の、悲鳴やクラクションでうるさいのに、上空は不思議な程静かだ。 「さっきは随分とやってくれたようだな……」 それを引き裂いた声は―― 「小さい……?」 「ゼオライマー!?」 なのはとロボットは同時に驚きの言葉を口にした。 「八卦……『風のランスター』か……」 なのはとロボットの間に浮かんでいるのは確かにさっきやられたはずのロボット――否、ロボットの形をした鎧だ。なのはと大きさはそう変わらない。 若干角が丸みを帯びているが、全体のシルエットは全く変わっていない。違う点といえば、両手の甲の球体が金色に光り、胸部の穴に光が灯っていることくらいか。 「やはりデバイスの形に切り替えたのは正解だったようだ……。ハリボテのゼオライマーとはいえ、十五年間『鉄甲龍』と管理局の馬鹿共を釣る餌くらいにはなってくれたようだな」 鎧の中から聞こえてくるのは若々しい少年の声だ。だが、その響きはとても冷酷なものに思えた。 「貴様がっ!真のゼオライマーだとでも言うのかぁ!!」 激昂したランスターが鎧に対して拳を叩きつけるも、拳は彼には届かなかった。 「バリア!?」 巨大な拳を受け止める程の強力なバリアが展開されている。 「そうだ……これこそが真なる『天のゼオライマー』!!」 冷酷で、それでいて心底楽しそうな声。 (この人……自分の力に酔っている……!) 「その証を見せてやろう……!」 ゼオライマーは右手をランスターへと向ける。手の甲の光球が光を増す。 そして光球から、ゼオライマーの何倍もの大きさの光の帯が走った。 「ぐうっ!!」 光はランスターの右腕を付け根まで消滅させる。 「次元連結システムは正常に稼動……。小型化しても威力に大差はなさそうだ」 次元連結システム――なのはには聞き覚えのない言葉だ。 ゼオライマーは左腕の光球をランスターへと向ける。 「次は……これでどうだ?」 光球が一瞬輝くと、ランスターの右足が爆発し、地面に落下する。 またランスターもバランスを崩して落下していく。 「クックック、貴様に同じ台詞を返してやろう。"何と呆気ない"」 そう言って、また彼は笑った。まるで地を這う蟻を見下すように、天から人を見下す神のように―― 「では……そろそろ終わりにするか……」 ゼオライマーは両腕を高々と天に掲げた。両手と胸の光は更に輝きを増す。 これ以上は危険だ。 「止めなさい!もう決着はついてます!」 なのははレイジングハートを構えた。 それは直感的な行動に過ぎない。後々罰を受けるかもしれない。 それでも――この光は止めなければならない。 彼はなのはを見ようともせず、 「ふんっ」 軽く鼻を鳴らしただけだった。 「ディバインバスター!!」 彼が鼻を鳴らすと同時に放ったディバインバスター。 彼はランスターの拳をバリアで受け止めていた。そのことを考慮して、制限があるとはいえ、全力全開のディバインバスターを放った。 しかし、ディバインバスターが当たる直前にその姿が一瞬幻影のように掻き消え、再び現れた。 「そんな!?」 「冥王の力の前に――」 両手と胸の光はもはや直視できないほどに輝いている。 「負けられんっ!この戦だけはぁぁぁぁぁ!!」 ランスターはなんとか身を起こし、『天』へと手を伸ばす。 「駄目ぇー!!」 「消え去るがいい!!」 なのはの叫びも空しく、ゼオライマーは両手を胸の前で突き合わせる。輝きが最大に達した時、地上に光が生まれた―― 地を覆い尽くす光は、ランスターを中心に家を、街を飲み込んでいく。『天』を見上げる数百の人々と共に―― その光は見る者全てを恐怖させた。それは指令所でモニターを見ていたはやて、少し離れていた場所で部下に指揮を出すフェイトも同様に。 身体が小刻みに震えるのを抑えることができない。厳密には、それは力への恐怖ではなく、多くの罪も無い人々を躊躇いなく消滅させることのできる者への恐怖――。 それはもはや人ではなく、まさしく――『冥王』。 「クックックッ……アーッハッハッハ――!!」 ならば今、なのはの前で笑っているこの男は――。 「そうだっ!ティア!スバル!聞こえる!?応答して!」 念話にも返事は返ってこない。 「まさか……」 眼下に広がる光を見る。広範囲に渡って街を包むそれは、まだ一向に消える様子はない。 この日、時空管理局は大規模な次元震を観測した―― 目次へ 次へ